『魔導具師ダリヤはうつむかない』の二次小説です。
ライトノベル8巻のカルロの心情を思うと泣きそうになりましたので、SSにしたいなと例の遺産をからめて妄想しました。
ヴォルダリに糖分を補給しようと思って妄想しているのに、なぜか完成品はシュガーレス。
何かの呪いでしょうか。
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視覚を刺す陽の光の刺激にヴォルフが目を覚ますと、その金目は知らない天井を映した。
兵舎とも、自宅であるスカルファロット別邸とも違う天井。身に沁みついた警戒心から体が強張ったものの、ふわりとダリヤの匂いが鼻腔をくすぐり、ここが彼女の寝室と気づいて力が抜ける。
同時に甘い記憶が脳を溶かし、ヴォルフはベッドのマットに身を沈め、傍にあったクッションを抱き寄せた。
『至高のクッション』の名を抱くこれをヴォルフ自身も持ってはいるが、白地に紅花詰草を丁寧に刺繍されたこれはダリヤの匂いがして、ヴォルフにとって至高の遥か上をゆくものだった。
「今度兵舎にある俺のと交換してもらおう」
「朝から変なことを言わないで下さい」
呆れたような声に、クッションの影から扉の方を見れば同じ紅色の髪に囲まれた照れ臭そうな顔。昨日、友人から恋人になったばかりのダリヤだった。
寝起きの自分とは違い、いつもと同じ落ち着いた服装に身を包んだダリヤの姿にヴォルフは昨夜の夢は己の願望かと思ったが、
「朝食、作ったから食べませんか?」
自分相手にカクカクとした緊張を孕む声で食事をすすめるダリヤは、その顔に『昨夜あったことは夢ではありません』と書いてあるようなものだった。
ヴォルフにとってダリヤは【最も守りたいと思う人】。
それは友人だったときも、恋人になった今も変わらない。ただここに「好き」という感情が『愛しさ』と『欲』を加え、いたって健康的な男性であるヴォルフが告白後に浮かれ気分のまま流れるようにダリヤに触れたのは自然なことだった。
一方で、ダリヤも経験はないものの、前世・今世とそれなりに知識もあり、人並みに興味や憧れもあった。告白後の数分で”そういう雰囲気”になったが、ダリヤにとってヴォルフはもともと信頼できる相手。想いを交わした直後であっても、その身を預けるのにほぼ不安はなかった。
ヴォルフの慣れた手付きにふと、「そういえば”こういうとき”は娼館に行くって言ってたっけ」なんて思い出して少々面白くない気分を味わいはしたが。
「服をもってきましたんで、着たら下に来て下さいね」
ヴォルフが礼をいうより先にダリヤが急ぐように部屋を出ていき、残されたヴォルフはベッドから出てダリヤの持ってきた服を身につける。
魔剣製作のときに汚したり破れたりするかも、と置かせてもらっていた着替え。当時は予想していなかった理由で出番となった服は少々季節外れだったが、ヴォルフは袖をおって調整した。
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