キラキラ妄想、命がけ

魔導具師ダリヤ

「魔導具師ダリヤはうつむかない」の二次小説です。

花火イベントでリクエスト「スカルファロット家のメイド視点のラブラブなヴォルダリ」とのことで妄想しました(残念ながらヴォルダリ感少な目)。

イメージソングはaikoさんの「花火」です。

「夏の星座にぶらさがって」ってイメージ好きなんですが、「無理じゃん」って脳が拒否したので歌詞の別パートで妄想を拡げました。

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 スカルファロット別邸は今日も朝から忙しい。

 侍女長の語る予定は少ないが、うちにある魔導具工房にくる来客の顔ぶれを考えると緊張しかない。
 護衛担当の騎士たちは「体を温めてくる」といって出て行ったが・・・こんな朝から何時間鍛錬する気なのだろう。

「今日はヴォルフレート様が御泊りになるからその準備を、例の部屋も含めて念入りにね。それでは解散、今日も頑張りましょう。」

 侍女長の言葉で解散する私たち、やることはいっぱいだ。
 つい最近までほとんど主人不在の閑静な邸だったのに、今では人の出入りが多い賑やかな邸となっている。

 スカルファロット家の遠縁で、父が男爵の家の次女として育った私がここで働いてしばらく経つ。
 指を折りながら優先順位を決めて、仕事を進めていくのにもすっかり慣れた。

 外見も中身も「中の中」の私。

 幼い頃に王子様が手を差し伸べてくれる夢は捨て、読書好きが講じて物語を作ったりして、王都の端っこにある邸で無難な幼少期を過ごした。
 成人を迎える頃は少しだけ『結婚』を意識したものの、二歳上の姉の見合いが先だと後回しにされた。これについて特に恨みはなく、それどころか「気が楽」と喜んでさえいた。

 我が家の親戚縁者の中心であるスカルファロット家から呼び出されるまで。

 遠くから顔を見るのがやっとのスカルファロット侯爵であるグイード様直々の呼び出しに、「何したんだ?!」と私の過失を疑った父に文句はない。
 本家御当主から呼び出されるというのはそれほど一大事なのだ。

 理由が分からずとも、例え他の誰かと勘違いしていても、呼び出しには逆らえない。
 私はびくびくしながら、グイード様からの手紙を受け取った翌日に私は侯爵家の門の前に立っていた。

 自分の訪問を待ち構えていたようなグイード様の「楽にしたまえ」という言葉をまるっと無視する形になるが、かつてないほど真っ直ぐの姿勢を維持する私にグイード様が持ち掛けたのが別邸侍女の打診だった。

『うちの弟はなかなかの美形でね。下手な侍女をつけることもできないし、紐付きなどもってのほかだ。とりあえず一門の女性をと思い、御令嬢のことを少し調べさせてもらったが・・・興味深い報告を受けた。私としては弟に害さえなければ君が別邸で何をしてもかまわないのだが、やってみないかい?』

 そういって目の前に差し出された紙に書かれた雇用条件は全く申し分がなかった。
 勤務内容も勤務形態も・・・そして給金も。

 主人が滅多に帰ってこない邸の管理は楽の一言、休日も休憩時間もばっちりとれる最高の環境にいる自分にあんな高額が払われていいのかと当初は尻ごみしたが、主人たるヴォルフ様の初めての帰宅のときに否応なしに理解した。

 もう、ね・・・いろいろ大変だった。

 まず、間近でみたヴォルフレート様はグイード様の”なかなか”が謙遜でしかない超絶美男子だった。
 そして「王都随一の美形」の真骨頂、その比類なき美貌がもたらしたのは私と同じ新参者の侍女の捕縛劇だった。

 主人の部屋から真夜中に素っ裸の女性が騎士たちに連れ出されるのを見送る羽目になった私の隣で「やはり今回もですか」と嘆息する侍女長。
 「あなただけでも残って良かった」という先輩侍女たちの背後には『逃がさない』という文字がでかでかと描かれていた。

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「そろそろ皆様が集まる時間よ、用意を急いで、確認も忘れずにね」

 采配の確かな侍女長の号令で次々と準備が整っていく。
 途中で今日は工房の新作発表のための集まりだったと思い出し、いつもの紅茶と一緒に砂糖とミルクを多めに用意すると侍女長が満足気に頷いてくれた。

 先を読み、言われる前に準備してこそ侍女の鑑。
 はい、分かっております。

 隣をみると先輩侍女がロセッティ商会から紹介された消臭剤をいくつか用意・・・思わず携帯コンロが収められている棚を見た私は悪くない。

 あれを使った食事もしくは酒を楽しんだ次の日は、私たちは気合を入れて臭いの付いた部屋を掃除するのだ。
 あくまでも邸を美しく保つ為、決してわき腹についた肉を落とそうと頑張るわけではない。

「今日のロセッティ商会の発表は・・・どんな方角に飛んでいくのかしらね」

 そう侍女長が思い出し笑いをするように、誰もが予想しない方に魔道具を発展させるのがロセッティ商会の会長であり、魔導具師のダリヤ・ロセッティ男爵様。
 そして我らが主人であるヴォルフレート様の大切な大切な、もう砂糖をザラザラ吐き出す勢いで溺愛している婚約者様である。

「まあ、時間通りに終わることはないでしょう」

 数刻後、侍女長の予想は当たり新作魔導具は皆が思いもしない方向に爆走し、ヴォルフレート様の指示のもと御茶のお代わりと共に料理人たちが『手軽に食べられるけれど長持ちする』をテーマに作った軽食が提供されていく。

 これは今まではグイード様が指示していたが、グイード様とヨナス様のもとで学び経験を積んだヴォルフレート様の役目となっている。

 夕方終わる予定の打ち合わせは藍色の空に月が輝く時刻まで続き、馬車停めに並ぶ馬車が少なくなってきたころ、ヴォルフレート様がダリヤ嬢が邸に泊まることを伝えに来た。

 成人した男女であり、婚約者同士でもあるのに、その言いにくそうな様子はまるで高等学院の学生のようで、「畏まりました」と侍女長が承るとヴォルフレート様の顔に笑みが浮かぶ。
 その無邪気な顔がどこか犬のようで、そういえば隊の御仲間に「緑の塔の番犬」と言われていたことを思い出して口の端が上がってしまった。

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 予定していた仕事が終わると私は自室に戻る。

 スカルファロット家は使用人を大切にするようで、使用人一人一人に個室が用意されている。
 これは私が侍女となるのに外せない条件だった。

 部屋の中心にはロセッティ商会の座卓。

 グイード様の温情で本邸と同様に別邸の使用人部屋全てに設置された温熱座卓には今冬も大変お世話になり、いまは上のカバーはないものの砂丘泡クッションとセットで部屋の中央に残っている。
 最初に見たとき「床に座ってくつろぐなんてあり得ない」と自分を蹴っ飛ばしてやりたいほど愛用している。

 座卓の天板の上には、ここ数週間白い紙が何枚も散らばった状態が続いている。

 幼少期は童話を書き、少女期には恋愛の「れ」の字程度の恋物語を書いてきた私、今は知る人ぞ知る小説家である・・・ただし、絶賛不調中。
 スランプにも陥るほどの才能はないが、物書きなら誰しも不調に陥るのだ。

 私の物語の主人公たちは自分で言うのも何だが大変魅力的で、寝ても覚めてもいろいろな妄想をかき立ててくれるのだが・・・なぜか文字にならない。
 紙にペン先を落とそうとした瞬間に主人公たちがふっと消えるのはひどく悲しく、「今日こそは」と何度も誓ってきたのにペン先を浸したインクがただ落ちるだけ。

 花火のようなパッと華やかな閃きは全く訪れない。

「糖分不足・・・恋愛経験少ないからそうだよねー、内容も枯れるよねー」

 恋多き女子ならば、それはもう手を変え品を変えで数多の手管で恋を綴っただろうが、生憎と恋と縁がない女の妄想の泉は浅い。

 もう筆を折ろうか・・・何度目かの挫折を味わいながら人をダメにする砂丘泡のクッションに体を預けていたら、

  コココココッン

 自室の扉が連打された・・・誰?

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「新しい魔導具の動作確認にどうして私たちが呼ばれるの?どうして?」
「わからないけど、多くの人の意見が欲しいんだって」

 扉を開けるとそこには仲の良い侍女仲間がいて、「着替える前で良かった」と笑った彼女は私の手を引いて邸の中を歩いていく。
 そんなに強く引かなくてもついていくよー、だってあのロセッティ商会の新作魔導具・・・にならないわけがない。

 彼女に引かれてたどり着いたのは二階のベランダだった。

「みんな何で庭を見ているの?」
「さあ・・・とにかく行ってみようよ」

 ぐいぐい引っ張られてベランダの柵の方に行く。
 左右を見ればいろいろの部屋から多くの使用人が外を見ていて、上からも声が聴こえることから三階にも人がいるらしいことが分かる。

 見下ろした庭の中心には魔導ランタンを掲げているヴォルフレート様と、地面にしゃがみこんでいる紅い髪の女性・・・ロセッティ様だ。
 グイード様とヨナス様の御姿も見える。

 声は聞こえないけれど、時々四人が体を揺らす姿から楽しそうなのが分かる。
 何かを生み出す楽しさ、馴染みのある感覚に私の心もうずうずして来る。

 何が始まるのかと見つめる視線の先で、グイード様以外の三人が下がる。
 そして庭の中央に残ったグイード様の周りで魔力が揺らめいた。

 高位貴族の膨大な魔力量を見せつけるように、突然大量の氷の壁がグイード様を中心に四方八方に立ち、太古の遺跡を見るような風景が出来上がる。
 グイード様がひとつ頷いたことから御本人が満足しているのが分かった。

 形も大きさも様々な氷のオブジェの中心からグイード様が去ると、続いて中心に立ったのは意外にもヨナス様。
 ロセッティ様ではないのか?と思わず首を傾げかけたとき、ヨナス様の手元が赤く、丸く光り輝いた。

「うわあっ」

 常に冷静であることが求められる侍女職にあるまじきことだが、喉から歓声が漏れ出る。
 慌てて口を閉じて周りをおそるおそる見たが、周囲も同じような仕草で、目を遭った同僚とやや気まずそうに笑みを交わす。

 庭に咲いたのは大きな赤色に輝く花、ヨナス様の魔法で生み出した光がグイード様がさっき作った氷の壁に反射して、まるで万華鏡のようにきらきら四方八方に散っている。

 「―――花火だ」

 誰かの呟きで広がる「花火」という言葉、そして花火を見下ろしているような、あり得ない風景に息を呑む。

 途中ロセッティ様が何か言ったのか、ヴォルフレート様がギョッとした顔をして、グイード様が顔を固め、ヨナス様が持っていた球体を頭上に掲げた。

――ヨナス様の頭が光ってる。

 確かに頭上に掲げることで暗めだったヨナス様の背面の光量が増えたけど・・・腹筋がつらっ。
 ああ、笑いたいけど、笑ってはいけない。

 私の両隣りもプルプルと震えていたし・・・グイード様も笑っているのだろう。
 いつも通りスマートに立っているが興がのったらしくて氷の壁を更に量産している。

 ・・・キレイに整えられていた芝生に突き刺さる氷。

「ローザリア様の笑顔が浮かぶわ」
「最近よく、仲良く三人並んでお説教を受けているな」
「まあ、男はいつまでも少年というのだし」

 少年らしい笑顔を浮かべていたヴォルフレート様がロセッティ様の耳元に顔を寄せる。
 ヴォルフレート様の仰ったことがロセッティ様にとっては困ることなのか両手で拒否の姿勢を示している。

 明らかに逃げ腰のロセッティ様の体をヴォルフレート様は素早く抱き上げて―――消えた?

 次の瞬間、ロセッティ様をお姫様抱っこしたヴォルフレート様が私が手を置いていた欄干の上に舞い降りて、驚く間もなく姿を消す。

「ヴォルフッ!」

 慌てたような怒ったようなロセッティ様の声が上から聞こえるから、どうやらヴォルフ様は身体強化を使って屋根の上に飛んだらしい。

 聴こえてきたのはヴォルフレート様の笑い声と、グスッと、少し後ろにいた侍女長が笑顔で鼻をすする音だった。

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「朝日が目に沁みる」

 ロセッティ様のお父様である給湯器男爵に感謝をしながら、手早くシャワーを浴びて寝不足の体に喝を入れて、朝の打ち合わせを終えて各自仕事に向かう。

 私の仕事はロセッティ様が使用した客間の確認、ヴォルフレート様がお出かけになったらその部屋も掃除する予定だ。
 掃除や洗濯は下女の仕事とする貴族邸は多いが、このスカルファロット別邸は主人在宅時のみ侍女がそれを担う―――ヴォルフレート様の使用済みの服やゴミが盗まれる恐れがあるからだ。

カチャッ

 客間の確認をして廊下に出たら、ヴォルフレート様に遭遇した。
 まだ眠そうな顔・・・羽織っただけのシャツから見える均整のとれた体・・・色気が駄々洩れ。

 もう・・・すっごくキラキラしてる!
 よほど素敵な夜だったのだろう、こんなの「目の毒」を通り越して「猛毒」である。

「おはようございます。 御朝食の前に何かお飲み物をお持ちしますか?」
「コーヒーと紅茶をひとつずつ、紅茶は砂糖多めでお願いしたい」

 侍女わたしと鉢合わせして気まずそうなヴォルフレート様。

 侍女など空気のように扱ってよいのに、メイド慣れしていないヴォルフ様は気まずそうにしているのだが・・・恥らう美丈夫、うら若い女子になんちゅうものをぶつけてくるんだろう、この人は。

「畏まりました」

 自業自得とはいえ徹夜した身にこのまばゆさは辛い。
 いや、あの魔導具とお姫様抱っこっていう萌えシチュエーションでインスピレーションを得て徹夜なのだから「他業」とも言えるのか?

 そんなことを考えながら下がろうとしたら、「そうそう」とヴォルフ様に呼び止められた。

「最近王城の侍女たちに男性と男性の恋愛模様を描いた作品が人気なんだって。人の趣味をとやかく言うつもりはないけど、人気作品に出る男が金髪黒目の騎士だって言うから読んでみたら身に覚えがあるような、ないような」

「・・・お読みになったんですか」
「うん。いろいろな作者のがあって驚いたよ」

にこっとヴォルフ様が哂う。

「まあ、それに俺が出るのは別にいいんだ」
「いいんですか?」

 マジか!?

 ・・・いけない、淑女にあるまじき言葉遣いになってしまった。
 心のうちだけど、気をつけなくては。

「まあ、俺じゃないしね。だけど、”ダリさん”を出すのは絶対に赦せないんだ。ペンネームじゃなければどこの誰か分かるんだけど」

「あの、『その方』もヴォルフレート様と同じく物語、架空の話ですよね?」
「まあ、架空でもね…”あの人”の可愛い顔は俺だけのものだからね」

それはそれはキレイな笑顔に喉の奥がキュッと絞められた気がした。
 ヴォルフ様の御友人が言う「魔王」の意味を実感させられた。

でも…好きなんです、仕方ないんです。

そう言いたいが、緩やかに体に巻き付くような威圧が喉をさらに強く絞めるから、私は首をたてに振るしかなかった。

「推し活、命がけだよ………やめよっかな」

 独り遺された廊下。
 乾いた笑いと共に弱音が漏れたが、脳裏に浮かぶのは暗い芝生に広がる赤い花…と、新作を求める贔屓の方々の声。

「同じカップリングで書いている人結構いるし、ペンネーム変えればバレないんじゃない?」と人の悪い顔をした妖精の黒い囁きに私は悩むことになった。

END

【あとがき】

作中の「花火」は万華鏡のイメージです(核がヨナスの炎魔法)。

ヴォルフに恋愛方面でときめかない条件として、拙い知識から腐女子のメイドさんに決定。腐女子の方が不快になる表現などありましたら訂正しますのでコメントお願いいたします。

匿名様、リクエストありがとうございました。ご希望に沿うことを願って妄想しました、気に入っていただけると幸いです。

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