真綿と蜂蜜

天は赤い河のほとり

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皇妃の執務室の前に現れた皇帝の姿に衛兵2人は最敬礼をする。そして、現在ユーリは休憩をしていること、側近のハディは妹たちと後宮の方で仕事をしていることを報告。

頷いたカイルは彼らに扉を開けさせると、少し2人きりにするように兵士たちに命じた。

薄布で陽射しが遮られた優しい光の中でユーリは眠っていた。

長椅子に横になり眠る姿は一枚の絵のようで、布をすり抜けて舞い込む風に揺れる黒髪と規則正しく上下する胸だけがこの部屋の中で時を刻んでいた。

揺れるユーリの黒髪がそよそよとカイルを誘う。

誘われて手を伸ばし、黒髪とわずかに膨らんだ腹部にそっと触れた瞬間に、蕩けるように甘い幸せがカイルの全身をつつむ。

あの戴冠式の終わりに、愛おしい女の身に自分の子どもが宿ったことを知らされた。

嬉しかった。

嬉しかったけれど、ユーリの妊娠を嬉しく思うだけ、胸の中に小さいけれど無視はできないチクリとした痛み。どうしても亡くした我が子、ユーリとの最初の子がこの場にいられないことを悲しく思った。

「今度は必ず護ってみせるから」

弱い皇帝にはならない。

愚かな皇帝にはならない。

大切な者を全て守れるように、強い皇帝になろうという思いをカイルは新たにする。無事に生まれてきてほしいと願いながら。

皇子だったら一緒に遊ぶことを夢に見る。ザナンザと共にしたように、馬に乗って遠くまで駆けて、剣の稽古をつけて。

姫だったら今から悩む。妻に似てお転婆な娘だったら宮廷内がてんやわんや…そんな幸せな悩みがカイルの心に満ちる。

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