想いの形

天は赤い河のほとり

「天は紅い河のほとり」の二次小説で、カイル×ユーリです。

原作終了後、デイルが産まれて第二子を懐妊中の頃のイメージです(そんなに時間軸は関係ありませんが)。

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ヒッタイト王宮の奥にある後宮で騒ぎが起きたのは突然だった。

「ユーリ、ここを開けろ!!」

「嫌!!」

「ユーリ!!」

「陛下なんて大っ嫌い!!」

衛兵たちも女官たちも、鬼気迫る二人の剣幕に何もできなかった。

何しろカイルはエジプトの王に「平和主義の戦上手」と称されるほど、皇子時代から歴戦の勇者。一方、ユーリは皇妃になる前は女性初の近衛長官で、エジプト戦でも指揮をとった女傑。

武人2人の迫力には近寄ることすら儘ならない。

「最近ずっと『忙しい』って言っていたのに、嘘吐き!!」

「嘘ではない!! 私は本当に忙しかったんだ!!」

扉を叩きながら大声で抗弁するが、その音に負けないユーリの声がカイルの鼓膜を叩く。

「じゃあ何でカイルの寝台に女性が寝てるのよ!!」


この日、久し振りに時間が出来たカイルはユーリの執務室に赴いた。そして甘い言葉でユーリを仕事場から奪い去り、自分に寝室に連れ込んだ。

久しぶりの甘い空気の中で、二つの唇が触れ合おうとした寸前。桃色の甘い空気に飛び込んで来たのは肌色の物体。

『陛下、早く昨夜の続きをいたしましょう』

婀娜っぽくカイルを呼ぶのは全裸の美女。白い肌を余すところなく晒しながら、紅い唇を緩やかにカーブさせ妖艶に笑いかける。

突然の状況に2人は唖然としたが、カイルの唇が動いたときユーリの頭に血が上り、

パアンッ

首を思いきり横に振られるほどの強さで、乾いた平手の音が響き、そして冒頭の騒ぎとなったのである。


「そんなの知る訳ないだろ!!」

自他共に認めるほどユーリに惚れ切っているカイル。身に覚えのないことを問われても解かる訳がない。解かる訳がない、のだが、

「知らない女性(ひと)じゃないくせに」

あのときユーリの耳には確かに届いた。

無意識なのだろうが、唖然としたままカイルが紡いだ女性の名前。そして、名前を呼ばれた女性は嬉しそうに微笑んだ。

「それは」

不意に図星をさされ、答えに窮したカイルの様子に周囲の人間の背筋が冷える。

「昔の恋人なんでしょ?」

ズバリな質問にカイルが黙っていると

「絶対に入って来ないで!!!!」

ユーリの激した声に木製の扉が震えた。

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