ゆらゆら揺れて

天は赤い河のほとり

天は赤い河のほとりの二次小説でカイル×ユーリです。原作終了後で登場はしませんが長男・デイルが誕生した後を想像しています。

恋する万葉集シリーズで、お題にした 「由良の門を渡る舟人梶を絶え 行方も知らぬ恋の道かな」は万葉集ではなく百人一首の1枚にある平安時代の歌人・曾禰好忠の歌です(新古今和歌集にも掲載)。

意味は「由良の門を渡る船頭が舵を失ったかのようにゆらゆら揺れてこれからが解らない私の恋」というように、恋に悩む歌です。

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「寝ちゃってる」

ふと同じ室内で仕事をしてるカイルの方から一切物音がしないことが気になり見てみると、穏やかな風に亜麻色の髪をふわりと揺らしカイルはゆらゆらと舟を漕ぎながら眠っていた。

小さく笑ったユーリはすっと立ち上がり、質の良いドレスの裾を慣れた仕草で払ってしゃがみこみ、舟をこいで揺れるカイルの顔を覗きこむ。

伏せられた長い睫

薄ら開いた薄い唇

大人の男性なのに、まだ赤子の息子の寝顔にどこか似ているとユーリは感じた。

10人中10人がユーリ似だと言う皇太子のデイルだが、ユーリは息子はカイルにも似ていると思っていた。

(ほら特にこんな寝顔なんてカイルにそっくり……ああ、そっか)

ユーリにとってカイルの寝顔は見慣れたものだが、カイルが寝顔を晒すのはユーリだけだった。誰にも知らないものをしっていることに嬉しさと歓びをユーリは感じた。

(これは私だけの宝物…私だけの場所)

眠るカイルの傍に佇む。

皇太子時代は数多の女性と浮名を流したカイルだが、常に周囲を警戒し剣を身近に置き、女性の傍で眠ることはなかった。そんなカイルがユーリの前でだけ無防備な寝顔を晒す。

― カイルが安心できる場所を護る ―

これがユーリが皇妃になると決めたときの誓い。今でもこれからも違えることのない永久の誓い。

ふわり甘い歓びに浸っていたユーリは扉の向こうから聞こえたハディの足音にハッとして、足音を殺して静かに部屋を出る。

ハディは扉をノックするところだったようで、驚いたハディの前でユーリは人差し指を唇に当てた。

「こちらが陛下にしか採決できないものになっています」
「結構あるのね」

10個ほどの粘土板を受け取りながらぼやくユーリにハディは苦笑した。

「ユーリ?」

吹いた風が強かったのか、起きたカイルの第一声はユーリを探す声だった。

「ここにいるよ」

ユーリは読んでいた書簡を脇に置いてカイルの傍にしゃがみ、もう一度眠るようにとカイルの隈の出来た目にキスをした。

(……あと少しで水の季節が終わる)

ユーリは目を閉じ再び眠りについたカイルにホッとして再び仕事に戻ったが、集中することができなかった。水の季節になると必ず患うカイルの不眠症はユーリにはどうすることもできなかった。

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