ノーカウント / 有閑倶楽部

有閑倶楽部

有閑倶楽部の二次小説で、清四郎視点で清四郎→悠理です。

それぞれ社会人になっていて、清四郎×悠理、魅録×可憐、美童×野梨子のCPになっています。

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「悠理、何か落ちましたよ」

カシャンッと何かが落ちた音を清四郎が指摘すると悠理の視線が床を這い、しゃがみ込みんで紐のついた何かをつまみ上げる。

「壊れちゃった」

その手のひらに乗っているのは小さなアクセサリー。ここ数年間、悠理の携帯電話のそばで揺れていた2匹の猫の根付(ストラップ)。2匹の猫は悠理の愛猫、タマとフクがモデルだった。

「未だ使ってくれていたんですか」

この根付は数年前の誕生日に清四郎が悠理に贈ったものだった。

「気に入ってたんだよなぁ…直せるかなぁ」
「魅録を頼るのはやめなさい。彼はいま可憐とデート中ですよ」

「分かってらぁ!魅録の完全な休みなんて珍しいから絶対に邪魔するなと可憐に釘をさされてる」

誰も邪魔しないってのに、と愚痴りながら別荘の中を歩き回る。

この剣菱家の別荘には有閑倶楽部の面々がよく集い、たとえ剣菱家令嬢の悠理がいなくても勝手知ったる我が家で適当にそれぞれが活用していた。広い邸内にはいくつも部屋があり、6人はそれぞれ自室めいたところに私物をおいてさえいた。

だから

「魅録の部屋にこの手の修理をする工具があるのでは?」
「魅録の部屋かぁ…清四郎、頼める?」

「ほう…悠理にそんな気遣いができるようになるとは」
「ダチとはいえ野郎の恋愛事情なんて知りたくもないからな」

恋愛には無頓着なくせに友情と恋情にきっちり線を引く。野生の勘はあなどれないと笑いながら、清四郎は残念そうな目で根付をみる悠理の髪をくしゃくしゃっと撫でて魅録の使っている部屋に向かう。

親しき仲にも礼儀あり。無人と分かっていても扉を一応ノックして、持ち前の好奇心に封をして魅録の工具箱を漁った。

「あんがとー。さ、直るかな、っと」

携帯用の工具キットから適切な工具を選んで悠理に渡すと、悠理はそれを使って小さな金具と格闘する。決して器用ではない上にすでに悠理はかなりの量のワインを飲んでいた。

父・万作譲りで酒に強いとはいえ、ゴロゴロ転がる空き瓶をみれば多少は酔っていないとおかしい。

「んー」

眉間にしわを寄せて奮闘する悠理の姿に、贈った甲斐があったと清四郎の心は温かくなった。

(しかし……そろそろ限界ですかね)

付き合いが長いと察することもしやすい。悠理の忍耐と辛抱もあと少しだと察した清四郎は悠理の視界に手を出し

「かしてみて下さい。僕がやってみますよ」
「清四郎ちゃん!」

間髪いれずに押し付けられた根付と工具。その間髪なさに悠理の我慢の限界が近かったのだと分かった清四郎は小さく笑った。

「直りそうか?」

清四郎の手元を乗り出すように見つめる悠理。幼い子どものように心配そうにのぞきこむ悠理に清四郎は微笑み、悠理のふわふわした髪を撫でる。

一時期は外科医になることを嘱望されていた清四郎、手先の器用さには自信があった。根付の金具を直すことなど直ぐに終わるはずだったが……

「・・・」

三度目の失敗に清四郎は心の中でため息を吐く。ちらりと目線だけをずらせば、悠理の横顔がすぐ傍にある。清四郎の手元を見つめるその瞳を覆うまつ毛の数が何本かさえ楽々数えられそうな距離に清四郎は緊張していた。

「……悠理」
「何?」

悠理の名前を呼びながら少しだけ体をひく清四郎に対し、悠理は清四郎の緊張など気づかず名前を呼ばれた反射でパッと顔をあげ、未だ至近距離にある清四郎の目をじっと見る。

純粋を絵にかいたようなキレイな瞳に清四郎はごくりと唾を飲む。

「そこにいられると明かりが届きませんから」
「ああ、そっか」

 後ろにある照明を見て清四郎の言い分に納得したような悠理に清四郎は内心ほっとしたのも束の間

 「こっちなら良いよな」

(…無防備なのは昔から、全くもって成長していませんね)

照明を背負わないように清四郎の左手側に移動して、清四郎の左手が影になって見えにくいのか乗り出すから、結果さっきよりもぴったり密着していた。 遠回り過ぎる自分の言い方を棚に上げた清四郎は内心項垂れる。

そこからの清四郎は幸せな地獄を味わう。

「直りそうか?」と訊ねる悠理の息が指にかかれば手が震え、上目使いの悠理の瞳に心が震えた。

「悠理…もう少し離れてくれませんか?」

今度は誤解されないように直接的な表現で頼んでみたが、そもそも悠理が清四郎の思い通り動いたことなど基本的にないのだ。

「なんだよ、邪魔してないだろぉ?」

飼い主に邪険にされたネコが復讐するように、くるりと目を回しふふっと笑い、清四郎の腕に頬をすりよせる。

「…悠理」

戸惑う清四郎の声などお構いなし。

「タマとフクもこんな感じなのかなぁ…気持ち良いぞ」

スリスリッと頬を摺り寄せては無邪気な発言を繰り返す。清四郎にとっては針のむしろだった。

(こいつは酔っている、完全に酔っ払い、酔っ払い)

頭の中で二人で飲んだワインの銘柄を次々と呪文のように繰り返し、甘える悠理から一生懸命意識を反らし手元の作業に集中する。その努力が報われて、金具の狭い隙間が希望通りの形になったとき「よしっ」と思わず声に出したとき

「あ、できたー?」

無邪気な小悪魔がころんっと、体を乗り出した反動で清四郎の胡坐をかいた脚の上に膝枕するように転がり込んできたから、清四郎は柄でもなく慌てた。

「ちょっ!…何してるんです!?」
「だって暇なんだもーん」

「お前のを修理してるんでしょうが」
「ん、あんがと~」

固まった清四郎の膝枕の上で悠理は自由にゴロゴロ転がり、丁度いい塩梅の場所見つけたので仰向けにおさまるとニカッと笑って

「清四郎ちゃん、愛してるよ」

爆弾を落とした。

- 愛してる -

悠理が良く言う言葉。感謝を伝える程度のいつもの軽口とも清四郎はよく分かっていたのに、『愛してる』という音は毒のように清四郎の体を巡り、耳から脳をしびれさせると、理性をドロリと融かした。

「悠理」

無防備のお前が悪い

これも躾のひとつだ

他の誰でもなく自分自身にそんな言い訳をして

「それじゃあお礼をもらいますね?」

丁度いい位置にいることですし、と清四郎は囁きながら悠理の細い顎に指をかける。

「もっちろん礼はちゃんとするぞ~」

シリアスな清四郎の雰囲気が嘘のように陽気な悠理。いつも通り無邪気な瞳だが付き合いの長さは伊達じゃない。瞳にはいつもの精悍さはなくトロリと溶けていて、白磁のような頬は可憐な桃色に染まっている。

こんな風に酔った悠理がこの時間を覚えていることはない。

そう確信した清四郎は上半身を屈め悠理の唇に自分の唇を優しく重ねる。アルコール漬けのブドウの香りがふわりと香るフレンチキス。

「悠理」

忘れてしまうから、これ以上ないほどの愛しさを込めて悠理の名を呼び、また唇を重ねた。

「普通…キスの最中に寝ますかね」

清四郎は苦笑して唇を離す。浅くでも悠理の唇にしっかり重なっていた自分の唇にふれると、いつもはないベタツキ。

(そういえば、いつだったか可憐に言われていましたね)

ペロリと唇を舐めると清四郎の舌を刺激したのは人工甘味料。思わず顔をしかめながら、清四郎はこれがチョコレート味のリップクリームだと分かる。

- あんたも女なんだから口紅くらい塗りなさいよ -

一部も隙もない化粧を施した可憐の呆れた様な台詞を悠理は「嫌だ」と一蹴していた。そのとき清四郎は悠理が拒否したのが口紅などではなく、女であることを自覚することなのだと思った。

「まだまだお子様ですね」

そう言いながら清四郎は悠理の唇から、桃色に光るぽってりとした唇は”お子様”と表現するには艶やか過ぎるが、自分がはがしたリップクリームの残りを拭うと

「今度、悠理好みの無味無臭の口紅を作ってみましょうか」

この無垢な唇に自分以外が触れるのは口紅さえも許せない、なんて思ってそんなことを言った清四郎は自分もいささか酔っていることを自覚して

「それよりも二日酔いの薬の調合が先ですね」

そう言った清四郎は幸せそうに微笑んでいた。

END

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