想いの形

天は赤い河のほとり

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「ユーリ様」

帝国トップふたりの喧嘩には大勢のギャラリーが集まり、ユーリの側近であるハディももちろんその場にいてユーリの怒りつつも悲しそうな音に心を痛めていた。

「情けない」

そんなハディの横でイル=バーニが軽く舌打ちし、目を瞠って見上げるハディに顎でくいっと指示をして、損な役回りだわ、と女官長という立場のせちがらさにため息を吐いた。

「陛下、畏れながら申し上げます」

犬も食わない夫婦喧嘩の間に入るハディに周囲の尊敬のまなざしが突き刺さる。

閉まった扉の前で力なく顔を上げたカイルの、その痛々しい姿に思わず絆されそうになったが、

「ユーリ様はご懐妊中の身ですから、(すでに十分興奮していますが)これ以上興奮させるのは」

現在ユーリは第2子を妊娠中で、第一皇子を筆頭に宮殿中が出産を愉しみにしていた。

「解かっている」

カイルは短く息を吐いて扉から離れると、ハディとその背後の壁の陰にいる双子を見て「ユーリを頼む」と言い残し、イル=バーニを始めとする側近を従えて立ち去った。

明らかに意気消沈しているその後ろ姿に、ハディはホッと息を吐いて妹たちと苦笑した。

「あの陛下が他の女性に目を移すなんて、ねえ」

「あり得ないけど…寝所に他の女性がいたら嫌ね」

キックリが同じことをしたら去勢ね、とキックリが聞いたら青くなることを言って笑う余裕があったのだ。

この時までは。

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