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「ユーリ様は未だ怒っていらっしゃるのか?」
「とうとうイル=バーニ様がいらしたんですね」
ハディは疲れた顔で、同じく疲れた顔のイル=バーニを迎え入れた。
このところハディの所には政府高官が交替で日参し、その対応に女官たちも追われ、自然とハディの仕事が増えていた。
「もう10日だぞ?」
「ええ、私たちも気になってはいるのです」
カイルとユーリの喧嘩は長くても一日。なぜならそれ以上はカイルがもたないからだ。
「生真面目な方だから政務は問題無いのだが」
「毎日いらっしゃる陛下の事は完全に無視していらっしゃるので」
ハディの声にイル=バーニは深くため息を吐く。何しろカイルの機嫌は日に日に急降下、その八つ当たりを受けるのはイル=バーニが筆頭なのだ。
「いい加減どうにかしないと」
ハディが淹れたお茶をため息で冷ますと、花の香りがほんの少しだけ心を癒す。
「ユーリ様の御機嫌を治す方法を知らんか?」
「思いつく限りのことは全て陛下がなさったんです。ユーリ様は無欲な方ですからこれ以上は」
「打つ手なし、か。 無欲はあの方の美徳なのだが」
宝石とかで機嫌が直ってくれれば楽なのに、とふたつのため息が同時に零れる。
なにしろ喧嘩の翌日、カイルはユーリに見事な首飾りを贈った。カイル自ら選んだ見事な品であり、これで喧嘩は終わると皆が喜んだのだが。
「贈り物は税金の無駄だって粘土板を陛下におくるだけで」
「焼く手間も省いた生の、ぐにゃっとものだな…陛下の気分はこれでかなり下がった」
「主君じゃない、よその話なら笑い話なのですが」
「ああ、腹を抱えて大笑いしたいな」
腹を抱えて大笑いのイメージから遠いイル=バーニの言葉にハディは小さく笑う。
「このままでは私たち誰かの胃に穴が開く。 ああ、そうだ、お前なら何を望む?」
「はい?」
思い掛けない台詞にハディの心が一瞬震える。
僅かに頬が熱くなるのを感じたが、そんな女心を理解できないのがイル=バーニ。
「お前はユーリ様と同じ庶民の出。良い案はないか?」
「ああ………成程」
ガックリとする心を叱咤しながら、イル=バーニの要望に応えようと考え込んだ。
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