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「ユーリの宝物、だと?」
「はい。 ハディが聞いた話ではそれが『愛の証』だとか」
「『愛の証』…また難しいことを」
カイルは一瞬頭を抱えかけたが、イル=バーニの『このくらいの大きさ』と示したことであることを思い出し、久し振りに明るい笑顔を浮かべた。
「イル、至急用意して欲しいものがある」
「やり過ぎだったかな」
ユーリは後宮の自室でぼんやりと外の池を見ていた。
喧嘩して数日たちユーリの頭も十分冷え、いま思えばなぜあんなに過剰反応したのかと首を捻るほどだった。
「あなたも吃驚しちゃったよね」
未だ平らの腹部をユーリはそっと撫で、そばの寝台で大の字で眠る息子デイルに布をかける。
傍に控えていたハディが柔らかい布をユーリにかけ、しょげた顔をするユーリに微笑みかける。
「ユーリ様も冷えてしまいます。それに今回のことは陛下の不手際。ユーリ様が御気になさることはありませんわ」
「でも、ちょっと過剰反応だったよね」
「仕方ありませんわ。妊娠中はみんなそうですから」
シャラもすごかったんです、とハディの言葉にユーリは笑う。
「新しい蜂蜜湯を持ってきますわね」
「ありがとう」
ハディの言葉に慰められたが、ユーリは何となく窓辺から離れがたかった。
涼しい風に吹かれていると”あれ”はただの嫉妬だと解かる。過去は変えられず、いまのカイルに責任は無い事なのだから。
「最低」
「それを言うなら私の方だ」
急に聞こえた声にユーリは吃驚して扉を見ると、そこにはカイルが立っていた。
「どうして」
「忘れたのか? この後宮で私の入れない場所はない」
ユーリの身体にカイルは優しく腕を回すと、優しく、でもしっかりと力を込めて抱きしめた。
「逢いたかった。 不快な思いをさせて済まなかった」
カイルの腕の力が強まる。
「どうか許してほしい」
身体を通して聴こえてくるカイルの声に、ユーリは胸を詰まらせ力なく首を横に振り、「ごめんね」と近くにいてようやく聞き取れる小さな声と共にユーリの細い腕がカイルの背中に回る。
「私こそ御免ね、カイルは何も悪くないのに」
「信じて欲しい…私の心は全て…」
カイルはユーリの頭の天辺に口付け、カイルは持っていたものを取り出すと優しくユーリの首にかけた。
「これっ」
驚くユーリにカイルは優しく微笑んで言葉を続ける。
首飾りを成す宝玉に掘られたのは見覚えのあるハートの文様。
「優しくしたいという気持ちも、大事にしたいという気持ちも、恋しいという気持ちも、愛おしいという気持ちも全てお前のものだから」
ユーリの目元に浮かんだ涙をカイルは優しく拭った。
「どんな心でも、私の心は全てお前のものだよ」
「カイル」
「愛してるよ」
「ん…」
「…それじゃあ」
カイルはにこりと笑ってユーリを抱き上げると、笑いながらユーリの耳元で甘く囁いた。
「お前も愛の言葉を紡いでおくれ、この可愛い声で、ずっと、ずっーと」
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