天の愛し子

天は赤い河のほとり

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いまは幸せだ。

でも、この幸せには多くの犠牲もあって、我が子も犠牲になった一人。

何も罪がなかった我が子、産んであげられなかった子、だから天上の世界では幸せでいて欲しい。

そう願わずにはいられない。

「ユーリ、神殿に行くなら蜂蜜をあの子に持って行っておくれ」

ユーリの膝枕の上で器用に寝返りを打ち、ユーリの顔を見ながらカイルは微笑む。手を伸ばしてユーリの黒髪を撫でる顔は少し悲し気で。

「幸せ呆けしてても、あの子を忘れたことは一時もない。あの子も私たちの大事な子だ」

潤むユーリの瞳にカイルは優しく微笑みながら思う。もっと上手くやれば守り切れただろうか、と。

後悔に襲われた夜は、亡くした息子を筆頭に、自分の皇位のために命を落とした者たちが現れる。そして続くのは彼らを愛した者たちの泣く姿。

「カッシュに馬車を出させよう」

「ウルスラも喜ぶわよね」

ほんの少し笑ったユーリの、黒髪が揺れる姿に、『彼女』も艶やかな黒髪だったとカイルは想う。

「娘だったらウルスラのように髪は長くしよう。お前が長い髪を嫌うから、お前によく似た黒髪がいいな」

出逢ったときに比べれば少し伸びたものの、直ぐに邪魔だと言って切ってしまうユーリ。伸ばしたら綺麗だろうに、とカイルは常々思っていた。

「邪魔じゃないかな」

「邪魔なら切れば良いさ、お前の様にな。好きなように生きていい。服も髪も宝石も、私は子の好きなことを尊重しよう」

カイルはユーリの短い髪を弾いて、

「私は子を政治に利用する気はないからな」

「そうなの?」

「自分を棚に上げて強要はできないだろう?」

そうね、と笑うユーリの腹を撫でながら優しく、けれども確固とした意志を込めて囁く。

「そのためにも私は平和な治世を約束する。亡くした彼らとも約束したからな」

よろしく言って来てくれ、と近づいてくるイル=バーニの足音にカイルは眉を潜め、

「無粋な奴だな」

「仕事をさぼっているからよ」

そのままで良いと制されたユーリは、座ったまま笑ってカイルを見送った。

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