砂糖菓子 / シティーハンター

シティーハンター

シティーハンターの二次小説です。

原作終了後で僚と香は恋人という設定です。本作品ではリョウに「僚」の字を当てています。

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夏と秋の境界にあるこの気候が僚は好きだった。冷えはじめた夕方、真昼の暑さが嘘のような冷たい秋風が僚の髪を揺らす。

鍛え上げられた身体は伊達じゃなく寒さに首をすくめて歩く周囲の人たちの様にこの程度の寒さで音を上げることはないが、涼しい風が吹き始めたのを合図ととって僚は軽い足取りで帰路についた。

秋色に染まりつつある新宿

視界に入る街路樹たちを観察して紅葉時期を予測して、香と見に来ようかなんて柄にもないことを考えている浮かれ気分の自分に苦笑いをして、

(恋の季節は絶対に春よりも秋だよな)

恋に浮かれた男よろしく、スキップするように冴羽マンションの階段を昇った。味気のない金属の扉を開ければ夏の暑さが残る室内の空気が秋風の冷気を優しく僚から追い払う。

「お帰り」

リビングに行けばその脇のキッチンに立つ香が真っ先に僚の目に入り、手元の食材、主にその量をみて僚は一人満足する。ここ数日毎日帰りが早かったからか、香は僚の分の夕飯も作ってくれていた。

(素直じゃないねぇ)

自分の不器用さを遥か遠くにある棚の上に放り投げた僚は、量が多くて皮をむく作業だけでも一苦労だといっていた先日が嘘のように、まるでダンスを踊る様に軽やかに楽しそうに料理をする香の後姿に笑う。

「タバコ吸うぞ」
「はーい」

日本の社会は喫煙者に厳しくなる一方だと愚痴った僚を慰めるためか、リビングには禁煙の風潮をあざ笑うような大きな灰皿がデンッと鎮座している。

やや重量のある灰皿をひょいっと持ち上げて窓際に移動し、窓をあけた僚は煙草に火をつける。しばらくして僚の口から出た紫煙は秋風に誘われて仲良く外に出ていった。

「いまさら煙なんて気にしないのに」

そう言う香に曖昧な笑みだけを返し僚はゆっくりと煙草を味わう。「どこもかしこも禁煙で嫌になるぜ」と言いながら2本目にも火をつける。

2本目の煙草を灰皿でもみ消して、煙草の煙の香りをあらかた外に払うと窓を閉める。とたんに僚の鼻をくすぐるのはシチューの香り。

「今夜は涼しくなるらしいからね。もう少し煮込むから飲んで待ってて」

そう言う香の手にはワインのボトル。普段はビールが多いのに、と疑問を浮かべた視線を向ければ

「かずえさんのお土産。マカロンもあるのよ」
「へえ」

甘いものよりも僚の興味はワイン。開けようとする香からワインを受け取り、
流れる様な手際で僚は栓を抜く。ふわりと葡萄の馨りが漂った。

「香も一杯どうだ?」
「そうね」

香が用意した2つのグラスに、濃い紫色の液体を僚がゆっくり注いでいく。そしてグラスの足をもち、ソファの隣の席に向けて差し出せば香は僚の隣に座ってグラスを受け取り、お互いの太ももが触れ合いそうな距離でワインを楽しむ。

(秋は良いねぇ)

昼間の気候に合わせたのか、香はシンプルなTシャツ姿。火のそばを離れて秋の空気が満ちるリビングでは少し肌寒いのか僚との距離はとても近い。まるで僚の体温を欲するような香の行動に

- 暑いんだからあっちに行ってよ -

そう言って香が自分から離れていたのは今からそんな前のことでもなかったと僚はやや眉を寄せる。夏は夜のお誘いも楽じゃない。

暑い
鬱陶しい

恋しい男への台詞とは思えない、そんな心ない香の言葉に傷ついた日々を癒してもらおうと僚がたくらみににた考えを抱いたとき、ふと艶色に染まる脳がリビングのテーブルの上に置いてあった箱に気づく。僚の頭脳が弾き出したのは、さっき香が言っていたかずえの土産のマカロン。

「開けていいか?」
「いいけど…僚が甘いものなんて珍しい」

やや不満げな香の声音に僚は首を傾げかけたが、箱のふたを開けて納得がいく。今度は噴き出すのをこらえた。

箱の中のマカロンは全て色が違う。どうやら全て味の違うらしく、香としては1つ1つゆっくり全て楽しみたかったのだろうと僚は香の目論見にあたりをつけた。

その証拠に「どれにしようか」なんて僚が選ぶ素振りをしてみれば、隠せない不満が香の顔を過ぎていく。

「これにするかな」

真っ白なマカロンに手を伸ばす。何の味かなんて僚には興味がない。だって

「香チャン、お口を開けてみな」
「へ?」

ホラホラ、と戸惑う香に口を開けさせて、一口サイズのマカロンを放り込む

「美味いか?」

ニッコリ笑う僚に戸惑いつつも口に広がる美味しさに香は頷く。咀嚼して半分ほど飲み込んだのか、香の口のふくらみが小さくなった頃

「俺にも味見させて」

僚は香の顎に指を当て、香の顔を上向かせてキスをする。洋菓子の味の中に混じる味わい慣れた香の味に僚は目元を嬉しそうに緩め、より深く、よりゆっくり、じっくりとキスを重ねていく。

口の中のマカロンが全てなくなっても、長く、甘くキスは続く。そんな二人を秋の乾いた空気でよりクリアに見える月が穏やかに見守る。

(秋っていいよな)

Tシャツ姿の香がすり寄り、やや冷えた細い腕を僚の腕が包むと人肌にホッとしたのか力の抜けた香に僚は口の端で小さく笑い

(あと…)

頭が痺れて融けかけた理性を香は総動員して、僚の黒い髪の向こうに見えるマカロンの箱をチラリと見つめて

(あと10個はあるわね)

唇の端をわずかに動かしたあと、香は再び瞳を閉じて僚の温もりに蕩けた。

END

砂糖菓子 / シティーハンター

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