鬼滅の刃の二次小説で、冨岡義勇×胡蝶しのぶ(現代転生ver.)です。
pixivではまったCP・ぎゆしの(冨岡義勇×胡蝶しのぶ)です。おばみつ、さねカナも少しだけ登場します。
設定は最終話の現代版をもとにしたオリジナル設定です。小学生×女子高生の純愛は描けないため、20代の恋愛?にしました。
義勇(義一)以外は名前がなかったので、大正時代の名前のままです。
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昔からよく見る夢。
藤の花が視界いっぱいに咲く風景。
修学旅行で行った京都の寺のように広大できれいな日本庭園。
以前テレビで見た銀山温泉のような大正レトロな街並み。
舗装されていない道から見える里山や広い田畑といった原風景。
なぜそんな夢をよく見るのか分からないが、夢を見た後はなぜか姉さんに会いたくなる。
今は離れて暮らしているからSNSで連絡をするくらいだが、姉さんによると小さい頃は泣いて姉さんに縋りついていたらしい。
「義一、待たせてすまんのう。お前は昔からその門をじっと見ているようだが、霊でもいるのか?」
名前を呼ぶ声にハッとして現実に戻れば、親友の育ての親であり、俺の剣道の師匠である鱗滝さんがいた。
揶揄うような鱗滝さんの言葉に俺は笑って首を横に振る。
俺の目に映るのは木造の門とその脇に植えられた庭木のみで、霊などいないし、そもそも生まれて20年間いままで一度も幽霊を見たこともない。
ただ夢の中でいつも、あんな感じの門の前に立っている人がいる。
「義一、待たせちまって悪いな」
鱗滝さんに大学の近況報告をし終わる頃に錆兎が玄関から出てきた。
未だ濡れ髪だから鍛錬後の身支度を急いで終えてくれたのだろう。
心がほわっと温かくなる。
「錆兎、飲みに行くのは構わんが義一の面倒をよく看るのじゃぞ。こんなポヤポヤした義一を飲み屋街に放り出してみい、どこぞの女性に連れていかれるのが目に見えておる」
これが20歳を迎えた大の男にする心配なのだろうか。
しかし大丈夫と胸を張れないのも事実だ。
先日も疲れた体で未だ慣れぬ飲酒をし、酔いつぶれて大学のゼミで一緒の女性の部屋に連れていかれそうになった。
部屋に連れ込まれる寸前のところでGPSから俺を探し出した錆兎が来なければ…想像するだけ怖い。
錆兎には本当に感謝している。
女性は本当に怖い。
「蔦子姉さんと真菰以外には近づいて欲しくない」
「水の滴るいい男なのに、過ぎると害でしかないんだな」
「錆兎がいてくれてよかった」
「俺にも仕事があるから高校時代のように助けられねえんだが」
「そうだな…他に助けてくれそうな友だちはおらんのか?」
錆兎と真菰以外の…友だち?
「すまん、忘れてくれ」
「お前…大学の連中に虐められたりしてねえよな?」
― そんなだからみんなに嫌われるんですよ ―
「俺は嫌われていない」
脳に響いたかわいらしい女性の声に思わず応えてしまった。
目の前の錆兎と鱗滝さんは同時に首を傾げたあと、哀れな者を見るような目で俺を見る。
「虐めどころか嫌われていたとは」
「嫌われていない」
「冗談だ。お前は口下手で要領が悪いが決して他人を傷つけるような真似はしない」
うんうん、と錆兎も横で頷いてくれる。
女性の声だったがあれは誰だろう。
俺の親しい女性といえば姉さんと真菰くらいだから覚えがない。
― 嫌われてると言ってしまったこと根に持ってます? ―
鈴の鳴る音のように可愛らしいけれど、優し気な甘さの中にとぷりと沁みこむ毒のような音。
うーん、誰に言われたんだっけかな。
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「しのぶ!」
姉さんの声のした方に視線を向けると、数人に囲まれていた姉さんが手を振りそこから抜け出してきた。
「はい、3日分の着替え。急な出張?」
「違うわ。ちょっと彼の家に押しかけ女房してこようと思って」
「ふうん、警察呼ばれないようにね」
「大丈夫よ、彼がお巡りさんだもの」
日本有数のお嬢様学校・鶺鴒女学院を首席で卒業し、20代の若さで亡き父が興した会社を継ぎ、父の代以上の資産を築く女傑。
文武両道と眉目秀麗を絵に描いたような姉さんの恋人は、意外にも近所の交番に勤務しているお巡りさんだ。
見た目が警察官というよりヤクザで、あまりの悪人面とぶっきらぼうな言葉遣いに最初こそは反対していたが、数回会えばすぐに彼が良い人、むしろすごく善人だと分かった。
「配達でーす」
背中の方から声がしたと思った瞬間にフロア全体から黄色い声が上がり、コチラに向けられた多くの女性の色めきだつ瞳に驚いたのも束の間。
「あらあら~」
そういって姉さんが笑うのも分かるほど、喜色満面から哀愁漂う表情にシフトした女性たち…なんなの?
「今日はトミオカさんじゃないのね、お休み?」
「…休みです」
「村田運送の社長さんも大変ね、今日はどこも同じ反応なんじゃない?」
「モデル並に顔がよくて背が高い、まあ顔でする仕事じゃないですけど、ちょっと口下手だけどいいやつだし、仕事も早くて正確だから、とてもありがたいんですが…流石に毎回こうじゃあ凹みます。」
社会において仕事ができることは最重要よね。
背が高く仕事ができるイケメンなポストマン?
その『トミオカ』とやらはこの近辺の会社のアイドルに違いない。
「彼が持っていたおはぎを恋人が気に入っていたのだけど、どこのかご存知?」
「知りませんよ、そんなこと…でも、なんでアイツはおはぎなんて持ってたんです?」
「昼食にしようと懐に入れておいたんですって」
懐におはぎを入れたアイドル?
…想像つかない。
「ねえ、さっき言ってた“トミオカ”さんってどんな人?」
あまりに気になったからつい聞いてしまった瞬間、自分のしくじりに項垂れたくなった。
姉さんに誘われて来た定食屋のご飯が美味しすぎるのがいけないに違いない。
しかしこのお店、美味しいけれど何でもかんでもてんこ盛り過ぎ。
姉さんと二人で分け合って食べるなんて久しぶりだから、楽しいけど。
「あら~、ようやくしのぶにも春が来るのかしら」
「違うわよ。懐におはぎ抱えたイケメンなんて気になるのが普通でしょ?」
照れちゃって、と微笑みながら姉さんが教えてくれた。
冨岡義一…くん、いま20歳の大学生。
両親は彼が幼いころに亡くなり、家族は年の離れたお姉さん1人だけ。
彼の高校卒業と同時にお姉さんが結婚したから彼はいま都内のマンションで一人暮らし。
ちなみにそのマンションは彼がモデルの仕事で稼いだお金で一括購入したものらしい。
「ずいぶん詳しいけれど、姉さんもやっぱりイケメンが好きなの?」
「やっぱりって、不死川さんも立派なイケメンよ。義一君は彼とは真逆タイプのイケメン、天然で少しドジな弟キャラ。さっきの情報はうちの女性社員の努力の結晶」
「あの、もしかして冨岡義一さんってモデルやってた冨岡さんのことですか?」
ふわっと音もなく女性の店員さんが会話に入ってきた。
桃色と淡緑色の混じったような不思議な髪色だけど、明るい雰囲気の彼女にとても似合ってきた。
聞けば厨房で料理しているのが旦那さんで、御夫婦でこの定食屋を営んでいるらしい。
「あら、蜜璃さんも彼のファン?」
「いいえ、全く。まあ、かわいい子だなとは思いましたけれど、私は旦那様一筋です♡」
小気味いいほどすっぱり否定して惚気る。
語尾にハートが乱舞している台詞のあとに厨房からガランガランとすごい音がした。
うん、ラブラブだ。
「時々ここに来るんです、彼。旦那様が作った『鮭大根』が大好きで」
鮭大根って何?
鰤じゃないの、普通。
「鰤大根を作ろうとして間違えて鮭で煮ちゃってね、小芭内さんと『あらら』って話していたら突然入口が開いて、そこにいたのが義一君で、第一声が『それ下さい』。それってどれって感じよね。それ以来週2、多いときは週4で食べに来るわ」
週4…隔日ではないか。
― 毎回同じ料理で飽きないんですか? ―
突然思っていたことが脳に響いた。
自分の声…に似ているけれど、何かに録音した自分の声を聴いたような馴染みのあまりない不思議な音。
「義一君が毎週来る店なんて聞いたらうちの女性社員が毎日押しかけそうね。あ、でも彼女連れとかだったら冨岡ロスで仕事にならなくなるかも」
「その心配はありませんよ。ここに来るときはお友だちで保護者の錆兎さんとだけだもの」
保護者付きの成人イケメン…だめだ、どんどんイメージができなくなる。
「一人では来ないの?」
「来られないんです。どこに座っても女性客の誰かが彼の隣に行こうとしちゃって…言い寄られるくらいならいいのですけど、烏龍ハイを烏龍茶だと言われて飲んで酔っ払ってお持ち帰りされそうになったことが」
「…お持ち帰り、定食屋で」
なんて危なっかしいイケメンだろう。
どのくらいのイケメンか知らないけれど、顔が良いは度が過ぎると生活も不便そうだ。
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「…ハーメルンの笛吹きか、お前は」
錆兎の呆れたような声につられて後ろを見れば、背後にいた数組の女性たちが慌てて足を止める。
はあ…なんなのか。
「店の売上げに貢献できれば鮭大根を大盛りにしてもらえるかな」
「…お前、本当に鮭大根が好きだな」
「竈門のおはぎも好きだ」
「絶品だな。焼き鳥も上手いから、帰りに買っていこうぜ」
炭火で焼かれた焼き鳥を思い浮かべて腹の虫が鳴りそうになった。
でも鮭大根を食ったら絶対に無理だ。
常連となった定食屋の奥さんは「たーんとおたべ」とによそるのがデフォルト。
焼き鳥を食べるために彼女の好意を無駄にして残しでもしたら、あの奥さんが泣いて、旦那さんがそれで怒って大盛りどころか出禁をくらう。
「いらっしゃーい、噂をすれば影ね♡」
底抜けに明るい声に出迎えられる。
奥さんはついてきた女の人たちをテキパキさばき、俺たちをいつもの席に案内する。
旦那さん一筋の奥さんにとって俺は常連客のひとりでしかないから気が楽。
「売上げに貢献してくれてて嬉しいけれど…そうだ、今日はちょうどいい盾がいるわ」
そういって奥さんが指さしたのは女性2人が座る四人席のテーブル。
恋バナ大好きとは知っていたが、俺が女性は苦手だと知るとそんなそぶりもなかったのに…ん?
「こんばんは」
俺がバイトで配達を受け持つエリアにある大きな自社ビルを持つ会社の女社長。
社長と言っても20代おそらく後半、もしかしたら30代かも?
「あら、義一君。女性の年齢を測るなんて不作法よ」
コロコロと笑いながらガツンッと釘を刺す。
逆らってはいけないと本能が訴え、隣も錆兎も同じ結論に達したのが分かった。
「義一君はいつものとして、錆兎君はどうする?お任せ?」
「旦那さんの料理を色々食べたいんで全体的に少量で、酒類多めでお願いします。お二人は何か飲みますか?」
テキパキと場を仕切る錆兎。
さりげなく奥さん好みにした超大盛りも遠慮している。
同い年なのにこういう気遣いができるところはすごい尊敬する。
「このあと押し掛け女房するんだけど、ちょっとだけ飲もうかな。しのぶの分とで日本酒、オススメの四合瓶を1本お願いね」
それが”ちょっと”の量なのだろうか?
御猪口1杯で結構ポヤポヤするんだけど、慣れれば結構飲めるようになるんだろうな。
酒は弱いけど嫌いじゃない。
試したいものもいろいろある…ムフフ、楽しみだ。
「胡蝶さんは意外とうわばみなんですね」
「酔ったことがないことだけは事実ね、鍛えた甲斐があったわ」
やっぱり鍛えればよいのか。
「義一が信じるんでやめてもらえますか?」
「あらあら、本当に見た目とは違って素直な子ねぇ」
「…素直というより馬鹿なのでは?」
顔見知りの間柄に遠慮していたのか、ここで初めて胡蝶さんの隣の女性が口を開いた。
胡蝶さんに似て淑やかな雰囲気で、それに見合った鈴の鳴るような声なのに、その内容と音にはとっぷりと毒が含まれていた。
「馬鹿ではない」
毒に侵されたのか思わず反論してしまった。
なぜだろう。
おそらく真菰が同じことを言えば“呆れ”を感じて笑って済ませられるのに、なぜかこの女性の口調が気に障った。
「あら、でも『馬鹿』の一つ覚えでここの鮭大根を食べてばかりだとか。同じものばかりを食べていると栄養が偏ってしまいますよ?」
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「大丈夫だ、きちんと野菜を摂っているので肌荒れや口内炎もない」
カチンときた。口内炎ならまだしも肌荒れを指摘。
私の頬にできた小さな赤い炎症を見ていったに違いない。
なに、この男!
確かに20代に足を突っ込んだばかりらしく肌はつやつや、鮭大根を私も食べようかなって気になるじゃない!
いや、違う違う。
「美容に関する知識をありがとうございます。ご丁寧な説明、もしかして『馬鹿』と言ってしまったこと根に持ってます?」
― 根に持ってます? ―
記憶になる声と同じ音だった。
俺はこの女性と前に会ったことがあるのだろうか?そこを確認するために名前を聞こうとしたが、そういえば真菰は“知りたい方が先に名乗るのが礼儀”といっていたから
「俺は冨岡義一という…あなたの名前は?」
「……胡蝶しのぶ」
「知らない名前だ」
はて、と首を傾げた男に思わずがっくりとうなだれたくなる。
「いま初めてお会いしましたからね」
なぜ知っていると思った?
初めてその名前を聞いたのは1時間ほど前だし、初めて顔を見たのは5分ほど前なのに。
間違いなく私とこの男は初対面。
この高さの顔面偏差値はなかなかお目にかからないのだから、一度目にすれば忘れないだろう。
…しかし、なぜこの男は前に会ったと思ったのか、謎だわ。
『胡蝶しのぶ』
知らない名前だし、見覚えのない顔。
彼女とは初対面だと思うし、彼女もそうだと言っている。
― いま初めてお会いしましたからね ―
しかし、この言葉には違和感がある。
… “初めて”?
「…いい雰囲気?」
姉である自分以外には見せない子どものような憎まれ口。
普段他人に対して笑顔の仮面をかぶり本心を隠す妹なのに、いまは冨岡相手に目を吊り上げながらも淡々と静かに言い争っているのにカナエは驚いていた。
「時を超えて巡り合えた…恋人か仇敵か判断はつきかねますが」
いつもは凪いだ水面のように何事にも動じない幼馴染が言い争っている姿に錆兎も驚いていた。
そして義一と言い争うしのぶの、義一の隣に立っても負けない美貌に
(義一って面食いだったんだな…真菰にも教えてやらなきゃ)
「はあい、そこまで。しのぶちゃんはそれ以上毒吐かないで~、義一君は鮭大根でも食べて落ち着いてね。なにごともタイミング、鮭大根は今が食べごろよ」
蜜璃の言葉に二人の舌戦がピタリと止まる。
普段ならば何があっても大好物の鮭大根が一番な義一が料理を見ないでしのぶを見ていることに、蜜璃は恋を予感した。
「決着はお預けですね…その肌荒れが早く治るといいんですが」
「3日で治して見せるわよ!」
(((3日後に会おうってこと?)))
かなえ、錆兎、蜜璃が内心で、ピッタリのタイミングで首を傾げた。
END
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