定食屋で山盛りを / 鬼滅の刃

鬼滅の刃

鬼滅の刃の二次小説で、伊黒小芭内×甘露寺蜜璃(現代転生ver.)です。

「おばみつ」好きです。

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― 将来の夢は花嫁さん ―

これは幼稚園の頃から変わらないただひとつの夢で、あまりにも私が花嫁花嫁言うものだからママは『18歳になったらすぐに結婚しちゃうかもね』と笑っていた。

「まあ、現実なんてこんなものよね」

カレンダーの今日の日付につけたデコレーションケーキのシールに苦笑する。今日がその18歳の誕生日だというのに、結婚を約束した人どころか、彼氏さえいないのが現実。

「嘆いたってしょうがないわ」

暗い気持ちを引きずらないのが主義だから、大好きな服をクローゼットから出して髪形を整える。日本人離れしたピンク混じりの髪色は私のトレードマークで、大好きな桜餅に似せて先端には淡い緑色を入れている。

校則の緩い私立高校でもなかなか目立つ装いだけど、好きだからいいじゃない?

『可愛い』と言ってくれるクラスメイトもその目は『変だ』と言っている。だけど彼らは私の友だちでも仲間でもないから気にならない。

「誕生日だしケーキの食べ歩きをしよう」

食べ物を扱う店を巡るのが私の趣味で、体を動かすことが好きな私はたくさん食べる。

その量は家族と親友以外はギョッと引くくらい。

いつも、いつも、女の子には少しは気を使うようにと諭されて、男の子には『ないわー』と嗤われる。幼稚園、小学校、中学校、高校、どこに行っても最初の4月には親を呼ばれて『御宅のお子さんは大丈夫ですか?』と異常を疑われた。

―王子様に無理に合わせる必要はないわ。自然に合うから王子様なのよ -

そういって胸を張った大好きな親友の名言。

そうよね!

だから私は私らしく自分を磨く。いつか私の王子様にピッタリ合うお姫様になるために。

『新しいメールが27件届いています』

「読み上げてくれ」

パソコンの画面を睨みつけ続けて疲れた目を閉じ、秘書代わりにしているパソコンにメールの読み上げを頼む。27件のほとんどは下らないものだと分かっていたけれど、万が一があるかもしれない。

『わかりました。1件目……私です、今度』「次」

『2件目…元気にして』「次」

『3件目…お願いが』「次」

『4件目…連絡』「次」

『次』というのも面倒になって放置する。コンピューターの声なのに、メールの送り主である母や姉、従姉妹の声に聞こえてくると心底気が滅入る。

生物学上の父と別れた後に妊娠が分かり俺を生んだ母。

先に生まれていた姉たちに俺の養育を任せ、恋多き母は男から男へと飛び回り、男と別れた一瞬だけ俺に母親面をした。

そんな母を見てなぜ姉たちは嫌悪しなかったのか。

姉たちも母と似たような道を歩み、仕事もせずに男から男へと渡り歩いて、男がいない時期は俺をATM代わりにしている。母と似たもの姉妹から生まれた従姉妹も御同様だ。

生産性は一切なく、男に依存する女たちには反吐が出る。

そんな彼女たちと同じ空気も吸いたくなくて、大学進学と同時に家を出て、アルバイト代を資産運用で増やしながら金をばらまいて身内を遠ざける。

それは大学卒業をした後も続いている。

「あんな奴らに奪われる財産を稼ごうなんて馬鹿みたいだな…鏑丸」

マウスの横で丸くなっていた鏑丸が少しだけ頭をあげて、同意するように俺の手にするりと頭を擦り付けると、また丸まった。

鏑丸は通りかかったペットショップで購入した白い蛇。一目惚れに近い衝動買いだったが、爬虫類を心底嫌がる身内を追い払うのにとても役に立ってくれた。

「お前のエサ代を稼いでいると思えばいいか……鏑丸?」

話しかけても頭をあげない鏑丸。そういえばさっきの動作もいつもより元気がない…病気か?

鏑丸の主治医も兼ねているペットショップに連絡すると連れてきてくれとのこと。外出はあまり気が乗らない性質だが、鏑丸のためと気合を入れて身支度を整える。

「鏑丸」

寒いのを嫌う鏑丸を黒いコートの内側におさめる。このコートの内ポケットはメッシュでできているので、チャックを締めても窒息の心配はなく、外出時のゲージ替わりになった。

「外出する。電話とメールはタブレットに転送して欲しい」

『わかりました。いってらっしゃいませ』

家を出てから3分で後悔した。

いつもの道が事故のせいで通行止め。未熟なドライバーを厳しく処す罰があればいいのに。

道を変えて仕方なく人が多い方に行く。人を避けるだけでもストレスがたまるのに、ごちゃごちゃと人が密集して動かなくなる。

ああ、ストレスでしかない。

舌を打ってよそ見しながら歩く奴らを睨む…と、彼らの視線の先にある洋菓子屋のオープンテラスの桜色に目をひかれた。

いや、目どころじゃなく心も引かれた。

まるで桜餅のような髪をした可愛らしい女性がケーキを食べている。ケーキはホールで、ホールケーキも1つじゃなくて3つあった。

チーズケーキ

チョコレートケーキ

ホールケーキを半分以上食べているようなのに腹が満たされた様子はなく、パクパクと楽しそうに食べている。それはそれは俺の方が楽しくなるような明るい笑顔で。

そんな彼女の向かいの席には1人の男。

俺とさほど変わらない年の男の顔は、周囲でこれを見学している他の奴らと同じように真っ青。口元を手で押さえ、あんなに可愛らしい彼女から目を背けてさえいる。

なんて失礼な奴だろう。

そんな俺のいら立ちをいやすように彼女は楽しそうにケーキを食べる。もちろんショートケーキの姿はもう形もなく、チーズケーキが半分攻め込まれている。

気が付けば俺は足を留めてそれをずっと見ていた。

最後のチョコレートケーキも残りあと数口というところで、彼女のフォークの規則的な動きが乱れ

クスッ

彼女の視線が向かう先を見て思わず声を出して笑ってしまった。

「あと1つ、追加していいですか?」

私の提案に『好きなだけ食べていいよ』といった見知らぬ男性はヒッと息を飲み、化け物を見るような目で私をみるとあたふたと逃げて行った。

やっぱりね。

もともと御馳走してもらう気はなかったから、一人になっても気兼ねなくチョコレートケーキを最後まで食べる。うん、美味しい。

「すみませ…「失礼、相席かまわないかな?」」

店員を呼ぼうとして首を巡らせると真っ暗。降ってきた静かな、だけど優しい声に驚いて顔を上げると珍しい2色の瞳。

「どう…ぞ?」

相席する必要もない客がまばらの店でのこと。この人もナンパかな、と思うとため息をつきたくなった。少し釣り目の穏やかな目に少しときめいちゃったから尚更。

「ありがとう。よければ、どうぞ」

そういって彼が差し出したのは大きな栗がのったモンブラン。彼の分も別にあるからこれは私への贈り物なのだろう。さっき見て美味しそうだと思ったケーキだから嬉しい。

「未だ食べたいのがあったら好きなだけ食べるといい。ああ、これまでのケーキ代は清算してあるからお金の心配も不要だ」

にこっと音もなく笑った彼は、さっき逃げて行った人が座っていたイスを引き寄せてスルリと座る。

優しい目。

「いただきます」

さっきホールケーキを3つ平らげたことを知っているのに、そんなことは微塵も気にしていないそぶり。それどころかとても嬉しそう。

「モンブラン、1つで良いんですか?」

もしかしたら私の同士で、大食いなのかもしれない。

「これ1つで十分だ。食べるのは好きなんだが、あまり食べられない性質でな。だからなのかな、とてもおいしそうに食べる姿が気持ちいい」

胃の底はブラックホールに繋がっているといわれている私の食べっぷりが褒められた!

嬉しい!

胸がいっぱい!

まだまだたくさん食べられそう!

私の前にあったモンブランは瞬時に消える。そんな私を見ても彼はニコニコ。自分のペースを崩すことなくコーヒーを飲みながら、私と同じモンブランを食べている。

「ん? もういいのか? そうか、甘いものばかりでは飽きてしまうな…どうだろう、近くにうまい定食屋がある。新米の時期だ、山盛り食べるといい」

『まだ食べるの!?』なんて耳にタコができるほど聞いたけど、こんなセリフ聞いたのは初めて。

素敵!

この人ともっとお話がしたいわ、私!

彼女は『甘露寺蜜璃』と名乗った。『甘露寺』と言えばアレルギー食や病院食を製造・販売する会社の名前だ。歴史の浅い会社だが社会への貢献度は高く、注目度も高くこれからの成長が見込める会社だ。

「うん、うちの会社だよ。私のこの食欲が病気なんじゃないかって其処彼処で言われてね。いろいろな人が栄養指導とか?に来るからパパもママもこの経験と知識を無駄にするのは惜しいって」

問えば案の定そこは彼女の父親が脱サラして興した会社だった。事業内容からして聖人君子な善人の経営論かと思えば、お茶目な人らしい。

彼女にあって10分で俺は彼女の父親、その他家族にとても詳しくなった。彼女の家族は全員で父親の興した会社をサポートしているらしい。だから彼女は『うちの会社』というのだろう。

「そうそう、あとね、うちには可愛い猫が4匹いるのよ」

続く10分で俺は彼女の家の猫に詳しくなった。どの猫も彼女に懐いているらしい。猫たちの気持ちがよく分かる。

猫の話のついでに俺も鏑丸を紹介した。

コートの前を大きく開けてそこで眠る鏑丸を見たとき、彼女の第一声は「可愛い!」だった。彼女の声に鏑丸は嬉しそうに全身をくねらせた。病気は?とも思ったが、ここで俺にペットショップに行くという選択はなかったから『元気になったなら良かった』で済ませた。

「伊黒さん」

彼女の弾むような声が俺の名前を紡ぐ。生まれて初めて俺の名前がきれいな音になった気がした。

とても楽しい時間だった。

いずれ来る『さようなら』の時間から全力で回避したくなるほどに。

だから。

「こんなに楽しい時間は初めて。私、伊黒さんとお話するの好き。ずっとこうしてご飯を一緒に食べたいわ」

「それじゃあ結婚しようか」

この流れは俺にとって自然なものだった。

3時間後、2人は宝飾店から出てきた。

2週間後、甘露寺蜜璃の薬指にはブラックオニキスで出来た珍しい婚約指輪がはまっていた。

ほぼ1年後の蜜璃の18歳最後の日、『甘露寺蜜璃』は『伊黒蜜璃』になった。

「夢は叶えないとな」

蜜璃の19歳最初の日の朝、おはようのキスと共にしれっと告げられた伊黒の言葉に蜜璃は楽しそうに笑った。

END

定食屋で山盛りを / 鬼滅の刃

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