鬼滅の刃の二次小説で、冨岡義勇&胡蝶しのぶ(大正時代ver.)です。
『待ち伏せ』の中にある“一夜”の物語です(生々しい表現はありません)。
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夜が明けたばかりの紫まじりの光が障子越しにさす薄暗い部屋で胡蝶は慣れた仕草で隊服を身に着け、蝶の羽を模した羽織をまとう。
髪を上げて蝶のついた髪飾りをつけた胡蝶は最終確認のために鏡に向かうと
(…初めて見る表情)
見慣れた造形なのに、薄く紅色を染めた鏡の中の女を胡蝶は知らなかった。
そっと触れた桃色の紅をさした唇はいつもより艶やかで腫れぼったいと胡蝶は他人事のように感じた。
数刻前まで冨岡が触れていた唇。
初めて交わした口吸いに戸惑う自分を叱咤して、及び腰の富岡を慣れた振りして先へと誘う。
無垢な体に男を受け入れたときの痛みと痺れは、違和感となって未だ胡蝶の体に残っていた。
息をひとつ深く吐いて、心と脳から一切の甘さを排除する。
白湯を入れた湯呑みを手元に引き寄せ、鏡台のカギのついた引き出しを開けてずらりと並んだ薬の包みをひとつつまみ上げた胡蝶は見慣れる赤に目を奪われる。
鏡に映った細い首には小さな紅い花が咲いていた。
虫刺されとも見えるものだったが、それが冨岡が残した痕なのだと胡蝶には分かった。
― 赤い痕は殿方の所有欲の印し ―
どこかで聞いた噂話。
その『所有欲の印し』が実際にわが身についていることに胡蝶は驚いた。
この印しを残した冨岡という男は、胡蝶からみて所有欲など抱きそうにない淡白な雰囲気があるというのに
― 独占欲が強いほどその紅は濃くまで、深く刻まれる ―
まるで血のような濃い痕を胡蝶は泣きそうな、どこか安心したような顔でそっと撫でるとそっと目を伏せる。
カサリ
藤色に染まる静かな室内に紙のこすれる音がやけに大きく響いた。
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『きっかけ』は名前も知らぬ隊員の逢瀬を目撃したことだった。
鬼殺隊は今日死ぬかもしれない身。
種をつなぐことは死を目前にした生命体に備わった本能なのだから、「こういうことは大目に見るように」という姉の言葉が浮かんだ。
― 普通の女の子の幸せを手に入れて ―
胡蝶の脳に亡き姉の最期の言葉。
身に取り込んだ藤の花の香りがふわりと漂うと胡蝶は発狂しそうになった。
胡蝶は自分が嫌いだった。
毒の力を借りないと鬼を殺せない非力な、花の呼吸をうまく会得できない小さな体。
この体で上弦の鬼を狩るため、姉を殺した仇敵を殺すため、胡蝶は体を藤の毒に侵すことを決めた。
決めたのに。
胡蝶の覚悟を体が拒み始めていた。
1グラムでも多く毒を取り込んで仇敵を弱らせないといけないのに、胡蝶の体はこれ以上毒を受け入れなくなってきていた。
さらに毒の服用がこれ以上できないとなれば、毒はそう間をおかず胡蝶に牙をむく。
それまでに仇敵に遭わなければ。
初めて毒を飲んだ1年前のあの日に動き始めた時限爆弾に気が急かされる。
(…怖い)
藤の花が牙をむく感触がぞわりと胡蝶の背を翔けたとき、ふと胡蝶の脳裏に浮かんだのは冨岡の顔だった。
本能でその理由を理解した胡蝶は、思考を放棄して夜着のまま夜空に舞った。
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軟膏や薬を届けるために何度か訪れたことがある水柱邸。
「薬を持たずに任務に行ってケガしたら厄介」
「ケガを隠して悪化させたらより面倒」
こんなことを言いながら、忙しい胡蝶が何かと理由をつけて水柱邸に薬を届けに来ていた。
(今夜くらい素直になってみよう)
継子のカナヲから冨岡が合同強化訓練に参加し始めたことを知った。
炭治郎が引っ張り出したらしいと聞いて、自分にできないことを正面から堂々と成し遂げる行動力のある炭治郎に胡蝶はチクリと嫉妬した。
素直な炭治郎に対抗するように胡蝶は塀にふわりと上がる。
するとちょうど冨岡が縁側に出てきて。
塀の上にいた自分に気づいた冨岡の驚いた顔に胡蝶は満足しつつ、胸元をくつろげた夜着姿にトクリと心臓を弾ませた。
いつもより早い心臓に気づかない振りして、胡蝶はわざと軽口で
「遅いですよ、冨岡さん」
最初の驚きをおさめた冨岡はいつもの無表情になり、その青みを帯びた瞳を向けて『なんの用だ』と訊ねてきた。
それに気づかぬふりをして胡蝶は塀から降りて
「肌を貸していただけませんか?」
理解できないと言わんばかりに脳天に?を浮かべた冨岡に、苦笑を堪えてできうる限りの蠱惑的な微笑みを心がけ
「ときおり遊郭に出入りしていた冨岡さんならばご理解頂けると思ったのですが」
任地からの帰り、日が昇り始めた朝の花街を足早に通り過ぎていた胡蝶は郭の出口から出てきた冨岡と鉢合わせしたことがあった。
あのときの冨岡のシレッとした顔を思い出した胡蝶はふわりと飛んで
「行動に出た方が良かったようですね」
冨岡の胸に飛び込んで、羞恥は完全にぬぐえなかったが、そのむき出しの熱い肌から感じたいつもより早い心臓の音に安心して体の力を抜いた。
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邸の敷地内に人が立ち入る気配に冨岡は目を覚まし、無意識に手を伸ばすとそこはただ敷布の感触しかなかった。
数刻まであった温もりはなく夢を見たのかと冨岡が思ったのは一瞬。
独特の気怠さの残った体、乱れた敷布とそこに残った血の痕、痕跡がしっかりとあった。
(痕をつけた、か?)
白地に残る紅を見た瞬間、昨夜幾度目か気をやったとき感極まって自分が胡蝶の首筋に残した痕を思い出した。
一瞬焦ったものの、“やってしまったものはしょうがない”と胡蝶にその処遇を任せることにした。
邸のいくつかの窓を開け空気を入れ替える音が冨岡の耳に届く。
金物や陶器がぶつかって鳴る音。
水の音。
竈門に火が点くにおい。
お館様の御好意により水柱邸は何人か通いの使用人がいる。
彼らは冨岡の好みを熟知しており、ふわりと鮭大根の香りが漂ってくると冨岡の口元が緩み、はやる気持ちで身支度を整えることにした。
いつもの隊服にいつもの羽織。
悩むことなく用意した冨岡は夜着に手をかけると、いつもとは違う藤の香りに手を留めた。
― 肌を貸していただけませんか? ―
いままで懸想のケの字もその雰囲気になかった胡蝶の突然の誘い。
戸惑う冨岡を揶揄うように、冨岡の腕の中に胡蝶は舞い降りてきた。
整った顔立ちの冨岡に誘いは多かった。
鬼を斬った昂ぶりを抑えるために遊女の力を借りる方法も知った。
他の隊員もよくやる普通のことだと認識していたため悪びれもなかったが、一度だけ郭の前で胡蝶と遭ったときにかなり慌てたという過去もあった。
遊女の真似事をして体を預けてきた胡蝶は明らかに未通女だった。
誰にも赦していないことに悦びを覚えていたから、小さな顎に指をあてて上向かせ口を吸おうとしたときに拒否され傷ついた。
遊女しか相手にしたことがないから、口吸いは特別な相手しかさせないと聞いていたから。
「口吸いはダメか?」
小さくなってしまった声を我がことながら情けないと内心思いつつ冨岡が問えば、胡蝶は伏せていた瞳をあけた。
その揺らぐ瞳にぼうっとした瞬間、首筋に何かを押し付けられ、反射的に跳ね除ける前にキュウッと液体を体に入れられた。
「毒か?」
「隊員同士の殺し合いは御法度ですよ、冨岡さん」
「…毒でも良かったんだがな」
冨岡の言葉を褥の戯言と判断した胡蝶は小さく笑うと、先ほど拒否した口吸いを自ら求めた。
そんな胡蝶の体を抱き上げた冨岡は、灯りを落として月明かりだけが照らす寝室で、中央に敷かれた布団の掛布をいささか乱雑に蹴り除き、その小さな体を敷布に倒した。
鬼殺隊は主な活動が夜になるため冨岡は自分の肌の白さを知っていたが、胡蝶が夜着にしている白い長襦袢を寛げると未踏の雪原のようなきめ細やかな白い肌に思わず目を見張る。
遊女と違って香を焚き染めていない自然な、胡蝶らしい少し薬草の香りがする肌に冨岡は顔をうずめる。
男を知らない肌はくすぐったいと感じて揺れて、商売女しか知らない冨岡に胡蝶の緊張と戸惑いが少しずつ映る。
「慣れているわけではないから…嫌だったり…したら教えてくれ」
ふと郭の前で鉢合わせしたことを思い出して、思わず言い訳じみたことを言ってしまった。
それを撤回するために冨岡は気遣いの言葉を重ねた。
しかし冨岡の言葉は胡蝶に何かを意識させたのか
「馴染みの好い方と比べないでくださいね」
「通い詰めているわけではない…馴染みもない、あれは一度切りだ」
「まあ…私には関係ありませんが」
胡蝶の瞳に宿る悋気に気づいた冨岡は安堵し、少しだけ口元を緩めると白い肌に口づけを落とした。
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開いた薬包紙に入った毒を少しつまんで、胡蝶は毒の粉を落とさないように気を付けて口に運ぶ。
これを数回繰り返して1回分の毒を食む。
体が毒を拒否するならばゆっくり飲んで、ゆっくり馴染ませていけばよい。
毒を食めず自棄になって冨岡と過ごした夜が参考になるとは皮肉なものだった。
他人の指と唇が体を這う感覚になかなか慣れずにいた、根気よく繰り返されれば肌は粟立ち、胡蝶の唇から漏れる吐息に甘さが増した。
冨岡も最初は固く遠慮がちだったが、胡蝶の漏れ出る声に安堵したのか体からこわばりが抜け、その手は袂を割って腿をなでるなど大胆さを増した。
「いいか?」
“何を”を含まない冨岡の問いに相変わらず言葉が足りないと胡蝶は思ったが、その身が浸る甘い靄をはらす気になれず黙ってうなずいた。
冨岡だし、とそう大胆なことはされないだろうと思っていたから
「ひゃっ」
突然衿の合わせから手が入り込み、体のわきを通って背中を支えたかと思えばぐっと支え上げられ、宙に浮いた肩から長襦袢が外され、だらりと垂れていた腕からさっさと抜かれたときには驚いた。
「え、ちょっと!」
慌てて胡蝶は無防備に晒しそうになった上半身をひねって代わりに白い背を晒し、その細い体に見合わない豊かな膨らみを両手で隠した。
本来そこを隠していた長襦袢は腰の紐だけで体にとまっている状態で、着物としての役割を果たさなくなっていた。
「綺麗なのだから隠すな」
胡蝶の戸惑いなんて気に留めず、胡蝶の力に抗うために少し強めの力でその細い肩をつかんだ冨岡はその華奢な体を仰向かせる。
胡蝶の形の良い胸がふるりと震え、その無垢を示すような桃色の頂がツンッと天に向いた。
冨岡の大きな手のひらが胡蝶の乳房を覆う。
男らしい節くれだった手の、剣豪らしくタコができて堅くなった手のひらに胡蝶の肌がぞわぞわと粟立った。
少しざらざらした堅い手のひらに先端のつぼみが擦られると胡蝶の背がしなやかに反った。
「……濡れてきたな」
「ひあっ…あっ」
ぴちゃりと耳を塞ぎたくなる恥ずかしさに身を縮こませ、体が跳ねそうになるのを堪えながら下肢に伸ばした冨岡の腕を胡蝶の両手が引き抜こうとする。
そんな胡蝶の抵抗を歯牙にもかけず、冨岡の腕はびくりともせずに胡蝶の濡れた場所に指を走らせる。
「こんっ、なのっ…本に、書いてなかったのにぃ」
「説明不足だな。妓楼でだって新造の水揚げは経験豊かな者が頼まれる」
「そうなんですか?」
房事の最中だというのに、場に似合わぬ声で問うたことに冨岡はコクリと頷き、状況を思い出させるように胡蝶の体の入口をなでていた指を中に沈めた。
探る様にゆっくりと入り込む異物に胡蝶は高い声を上げる。
「馴染ませることが大切だ。ゆっくり解せば体は順応していく」
「あ…あぁ……んぅ」
異物感とぞわぞわした感覚が胡蝶を襲うと冨岡の腕を抑えていた胡蝶の手が緩み、胡蝶の手が緩むと冨岡はその手と指の動きを大きくして胡蝶の体を慣らしていく。
「構わぬから気をやるといい」
冨岡の言葉の意味は分かるが、全身に散らばるぞわぞわを集めることができない胡蝶は泪で揺らぐ視界に冨岡を収めながら首を横に振る。
きっかけが欲しい。
そう思っていると冨岡の指が隠れていた蕾にあたり、その瞬間爆ぜた快感に胡蝶は体をピンっとこわばらせ悲鳴のような声を漏らした。
「経験の少ない者はこちらの方が気をやりやすいんだったな」
忘れてたと言わんばかりに蕾をいじり始めた冨岡をにらんだ胡蝶だったが、巧みに走らされる快感に対応しきれず気をやってしまった。
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「水柱様、洗濯ならば仰っていただければ…お怪我を?」
パンッと音をたてて物干しに敷布を干す冨岡を発見した者が慌てて駆け寄り、敷布についた点々とした血の痕に気づいた。
「……すまん、洗ったのだが落ちなかった」
「血は落ちにくいので。新しい敷布を用意しましょう。あと治療が必要でしたら蝶屋敷に鎹烏を飛ばしますが?」
「治療は不要だ。敷布も…このままで良い」
白く大きな布が風を含み踊るように舞う。
それに昨夜の胡蝶の媚態が重なり冨岡は違う敷布を断った。
「朝食をお願いしたい。鮭大根の良いにおいがする」
「水柱様は御鼻が利くのですね。そういえば弟弟子の竈門殿はとても鼻が良いと聞きました」
(炭治郎がいたら敷布から香る藤のにおいに気づくだろうな)
その理由には気づかないだろうが、と冨岡はわずかに口元に緩めた。
胡蝶の白い肌が熱を食み、紅色に染まるにつれて藤の花の香りが一層強くなった。
肌に浮かんだ珠を舐めれば汗の塩気が冨岡の舌をピリッと刺激したが、その嗅覚を刺激するのは藤の香りで、藤の花を抱いている気持ちにさえなった。
「ん……あ、ああ……んうぅぅ」
全身をまた張り詰めさせながら喘ぎ、数秒後にぐったりと弛緩させた胡蝶の体から指を抜く。
ふやけた指の1本を口に含めば、気をやっていた胡蝶のぼんやりした瞳がハッと見開かれる。
ぐいっと腕を引っ張られてチュポンッと指が抜けた。
「判っていて…馬鹿なのですか、貴方は」
「安心しろ、死ぬ気はない…お前も死なせる気はないようだしな」
だらんと全身が弛緩したと思ったらすぐに正常に戻る。
毒と解毒薬の拮抗で冨岡は体温がいつもより高いと感じながら、解毒されてしまったことをやや残念に思う気持ちに蓋をする。
この毒になら殺されていいと思うほど、全身を紅潮させて、潤む瞳で、いつもの取ってつけた嘘臭い笑顔を取っ払って睨みつける胡蝶は冨岡の目に眩しかった。
自分じゃない、他人のために咲こうとする毒花。
髪の毛ひと房も自分に残さない胡蝶に冨岡は奥歯をギュッと噛み、いささか力を込めて胡蝶の両膝に手を当てて押し開くと、己を胡蝶の入口にあてがい腰を前に押し出した。
胡蝶の瞳が焦点を失い、目じりに浮かんだ生理的な涙を冨岡は舐めとる。
指で解したものの胡蝶の体の胎は狭く、暴力的に押し開く異物を排除しようとする肉の動きに冨岡は奥歯をさらに強く噛みこんだ。
「痛っ…いた、いぃ」
胡蝶の胎の滑りが悪くなったのと、胡蝶が痛みを訴えるのは同時だった。
冨岡は奥に進みたがる体を理性で押しとどめ
「力を抜け。すまん…ゆっくり、する、から」
返事の代わりに冨岡の肩に胡蝶の指の爪が立ち、細い腕に力がこもり胡蝶は冨岡に縋りついた。
浮いた背中に手を当てて背筋に沿って上下にさすれば胡蝶の体のこわばりが解け、己を締め付けていた肉の圧迫も緩まった。
トロリ
胡蝶の体の奥から新たな蜜がわき、己に絡みついた瞬間に冨岡の体からスウッと力が抜けそうになる。
使命も何もかも忘れてこのまま死んでもいいと思いそうになったが
「冨岡さん」
鼓膜に直接叩き込まれたような胡蝶の甘い声で生に縋る。
死んでもいい
死んでたまるか
(この夜を俺は一生忘れない……望むらくは)
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苦しいほどに自分の体を抱く鬼の腕。
覚悟はしていたが、その気持ち悪さと悍ましさに胡蝶の全身が『違う』と声高に叫ぶ。
腕を上げることもできないほど力を失っていて良かったと胡蝶は思った。
情報通り女の血肉を好む鬼。
この化け物は胡蝶の体を絡めとり、骨がきしむほど力いっぱい抱きしめて褒めたたえているが一切嬉しくない。
胡蝶が求める腕はただ1人。
(冨岡さんは未だ生きているのかしら)
こんな状況だというのに。
てっちてっちと歩く後ろ姿が浮かんでしまって胡蝶は口元を緩める。
(そうやってゆっくり来てくださいね)
胡蝶は靄のかかる脳で、あの夜に見つけた縁側にたたずむ冨岡を思い出す。
(嗚呼、私はやっぱり姉さんにはなれない。冨岡さんの幸せを願えない)
あの人の隣に女性が立つのを見たくない
彼の子孫繁栄なんて願えない
― そんなだからみんなに嫌われるんですよ ―
(どうかあの毒が永遠に彼を蝕みますように)
END
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