“さよなら”の唇

ガラスの仮面

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「…速水社長もやるわね」

数分後には全て吐露していた。

もともと隠し事ができるタイプではないマヤの顔は真っ赤だったが、心のどこかで誰かに聞いてほしいという気持ちがあったので安堵もしていた。

その誰かに亜弓は最も適していた。

「あの……内緒にしてくれる?」

「勿論」

亜弓は自分の芯を強く持っていて、大事な人の秘密をおいそれと漏らす人間ではなかった。亜弓の揺るぎない芯を感じたマヤはホッとする。

「良かった……速水さんに迷惑、かけたくないから」

「…そうね」

マヤの言葉に亜弓は頷いて同意したが、それは真澄の為ではなくマヤの為だった。

父が映画監督で母が大女優。芸能界で生まれ育った亜弓はマヤよりも情報化社会に慣れ親しんでいた。その上で二人の仲を公にするには時間がかかると判断した。

大都芸能はいま経営があまりよくない。

旧体制から新体制へと過渡期ゆえと言えるが、大都芸能はいままで速水英介の強引さと一種のカリスマ性でその力を維持していた。その英介の体調不良は大都芸能の信頼度を急降下させる。真澄の力もなかなかのものだが、旧体制派を引っ張る力がなかった。

(速水社長が大都芸能を見捨てられるわけないわよね)

真澄が己の信頼度を上げる方法が鷹宮との協力だ。但し、ここには真澄と紫織の結婚が絶対条件だった。鷹宮翁の古い価値観と彼が溺愛する自慢の孫娘・紫織自身の希望が重ねれば絶対に曲がらない条件だと分かる。

「速水さんが紫織さんと婚約したとき…忘れようと思ったけど、やっぱり好きなの」

簡単に忘れてしまえるなら最初から恋に堕ちない。

熱く蕩ける様な恋ならいざしらず、心を痛める恋だと分かっていても落ちてしまえば救えない。

「そばにいられたら協力できるんだけど」

「ううん、亜弓さんは目を早く治して。帰ってきたら一緒にまた舞台でもやろうよ!楽しみにしてる」

「困ったこととかあったらいつもで連絡して」

「うん、ありがとう。…でも私ドイツ語喋れないからなぁ」

マヤの言葉に亜弓は目を開き、面白そうに笑った。

「大丈夫よ、携帯電話だから私が出るわ。私は日本語話せるから安心して」

「…あ///」

「それにいざと言うときは速水社長にお願いして。確かドイツ語も話せたはずよ」

「そうなんだ」

真澄に関する新情報に目を輝かせるマヤは恋する乙女で、恋愛を疑う報道は早そうだと亜弓は危惧したが、騒がれても真澄が護るだろうとも推察した。

その程度の甲斐性が無くては困ると辛辣な判断をした亜弓は優雅に紅茶を飲んだ。

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