物語を紡ぐ / ガラスの仮面

ガラスの仮面

ガラスの仮面の二次小説です。二人と周囲の関係は次ような感じで捏造しています。捏造でも良いという方のみお読みください。

  • 真澄とマヤは恋人同士
  • 真澄と紫織は婚約解消済み
  • マヤは亜弓と2人で紅天女の後継者になった

イメージソングはAIの「Story」です。

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「旦那様、真澄様と北島様がいらっしゃっていますが」

“いい加減お会いになっては?”と言外で己を責める執事に速水英介は声を荒げ

「煩い!何度来ても変わらん!奴等の顔など見たくもない」

「…という次第でありまして……本当に申し訳ございません」
「…あんの頑固爺が」

下げた頭の上から降ってきた真澄の独り言に執事は吹き出しそうになるのを必死にこらえる。そして同時に“真澄坊ちゃま”の変貌ぶりを嬉しく思った。

英介が再婚した妻の連れ子。母の死と同時に感情を無くし、独裁的な英介の操り人形のように唯々諾々と英介の言葉を受け入れていた。結婚相手も英介の選んだ相手だろうと思い、令嬢を絵に描いた紫織を婚約者としたのも何ら不思議ではなかった。

(しかし恋の力とはすごいものだな…遅れてきた初恋だから尚更、か)

見合いから婚約まで順調過ぎるほど順調に進み、結婚式までカウントダウンというところで真澄は突然婚約を破棄した。紫織も了承していると、怒髪天を衝く英介をよそにテキパキと数日分の荷物をまとめて速水邸を出て行った。

真澄と英介の衝突した現場に執事は立ち会わなかったが、英介が一方的に怒鳴り、結果として勘当したのだろうと予想はついていた。

(あれで旦那様はお独りになると思ったが…意外な伏兵がいたな)

「しょうがないですよ、人間年を取ると頭が固くなって周囲の意見を全く聞かなくなるといいますし」

言いにくい事をズバッと、それはもう小気味よく言い切るのは、少女と大人の境界線にいるくらいの若い女性。最初紹介されたとき執事は失礼を忘れて二度見してしまったが、<あの>紅天女の後継者の一人とはどうしても信じられない平凡な、どこにでもいる程度の女性だった。

「…それは間接的に俺に言っているのか?」
「いいえ。あ、でも何か心当たりがあるとか?未だ若いと主張するなら治した方が良いですよ?」

「主張ではなく事実だ」
「そうですか。でもいい加減会長には出てきてもらわないと。私、明日から舞台の稽古が始まるので」

「それは分かっているのだが…」
「だから2人とも頑固なんですよ。会長は速水さんが悔い改めるまで会わない、速水さんも会長が認めるまで会わない、これじゃあ死ぬまで平行線ですよ?」

「…君にしては難しい言葉を知っているな」
「そばにいる若年寄みたいな人が難しい言葉をたくさん使うんで覚えてしまったんです」

にっこり笑うとマヤはすたすたと英介の部屋の方に向かって歩き出す。咄嗟のことで、予想外の行動だったので執事と真澄は反応が遅れ、2人が追いついたときには

「こんにちは、速水会長」

鬼の形相で睨みつけていた英介に対峙して、マヤはにっこり笑っていた。

「生まれの卑しいものは最低限の礼儀も知らないようだな」
「礼を尽くして幾度も訪問している若者をバレバレの居留守で追い返す人も無礼ですよ?」

「儂に意見するとは紅天女を継承して尊大になったか」
「自信がついたのは確かです」

にっこり笑ったマヤは真澄の隣に立つ。それは社会的地位の高い真澄の横に立つ自信がついたという主張に他ならなかった。マヤの援護に力を得た真澄は緊張する喉を叱咤して「親父」と呼んだが

「儂に息子などおらん。お前と儂はもう他人だ」

冷たい拒絶に、途端に幼いころを思い出されて、真澄が言葉を詰まらせる傍らで、マヤはニコニコ笑って

「そうですか。ならば速水さんは私がもらいますね。速水さん、このおうちの中に忘れ物とかありませんか?」

マヤの言葉に反射的にうなずいただけの真澄だったが、真澄より修羅場をくぐった経験値の高さから英介の方が早く脳と声帯を回復させた。

「紅天女になれたからといってお前が真澄に何を与えてやれる?小娘がいきがるでないぞ」

「私は速水さんを『女』として愛していますし、速水さんが求めるならば『母』のように癒してあげます。『姉妹』のように甘えたり『女友達』として喧嘩したりもします。もう少し頑張れば『おばあちゃん』にもなれるでしょう」

― 千の仮面をもつ ―

師たる月影千草が評したように、表情や声音をころころ変えてマヤは語る。

「限られた人生の中でどれだけの『役』を演じられるのか分かりませんが、私は一言で片づけられないほど速水さんを想っています。私は一生をかけてたくさんの『想い』を速水さんに伝えて、速水さんの心を支えて守っていきます」

マヤの言葉に、真澄は自分の心の中の少年が嬉しそうに笑ったのが分かった。

母親を亡くして寂しかった想い

兄弟と遊ぶ友達がうらやましかった

友達と対等に喧嘩してみたかった

真澄の記憶の中、いろいろな出来事の中で足りなかったいろいろな人物のところにマヤが立ってくれた。

「だから速水さんにあなたはもう必要あり…「マヤ!」」

マヤに似合わない冷たい声で、冷たい表情で、英介を切り捨てようとするマヤのセリフを真澄が急いで遮る。

なぜ自分は焦っているのか

何も考えずに反射的に遮った。その理由を教えてくれたのもマヤだった。マヤは全てを理解したような表情で真澄ににっこりと笑う。

そして、ふう、と息を吐いたマヤは執事に向かって

「すみません。一息で話したら喉が渇いたんですけれど…ああ、いいです。私のわがままなので自分でお台所に」

「待ってください、北島様!お客様にそんな…」

演劇で鍛えぬいた体で、その小柄な体に似合わない速さで英介の部屋を出ていくマヤ。そのあとを執事が慌てて追いかけていき、英介の部屋には父子ふたりが残された。

「お前…ああいう娘が好みだったのか」

沈黙に耐えられなかったのは英介の方で、それでもマヤに気を抜かれたのだろう、普段の英介からは考えられない素直で気安い台詞に真澄は笑うのを堪えて

「そうだったんですね。彼女が初恋なので判断しようがありませんが」

「初恋…か。初恋は…麻疹のようなものらしい。遅ければ遅いほど重症で治りにくい……儂も初恋は遅かった。だから…なのか、拗らせて、壊して……いまとなっては何をしたいかわからん」

執着していたのは『紅天女』なのか、演じていた『女』なのか。

「俺はあなたを見返すために『紅天女』が欲しかった」
「………そうだったのか」

「復讐したかった」
「……だろうな」

手を伸ばした人に拒絶される悲しみ、悔しみは英介もよく知っていた。

拒絶した彼の人を自分のものにしようと躍起になり、自分の命を燃やすかのように烈火のごとく邁進してきた。この火を才能のある目の前の男に託せたと思ったのに

「お前は儂が思った以上に母親に似ていたんだな」

静かな女だった。それはまるで音もたてず流れるような小さな川、みずぼらしく、その存在は希薄で誰も気づかない。

一言でいうならば『地味』。

だけどその水は確かにあって、周囲の悪意を穏やかに流し、愛する息子をしっかり根をはらす大木にした。息子は母の与えた愛情の水をその身に蓄え、表面をどんなに業火に焼かれようと失うことはなかった。

「俺はあなたでも、母でもありません。だから俺は自分だけのストーリーを描きたいと思います」

「梅の精がそばにいるのだ…ずいぶんと優しいものになりそうだな」
「そうでありたいと思います……だから、俺に協力してもらえませんか?」

首を傾げる英介の仕草が、いささか幼子のようで真澄は小さく笑い

「俺も彼女に全てを与えたいと思っています。『兄弟』のように甘やかしたり『男友達』として喧嘩したりもします。でも『男』ですから、やっぱり愛する人は騎士のように全身全霊で守りたい…だから、『父』と『祖父』なんてやっている余裕はないんです」

「旦那様、真澄様と北島様がお帰りになりました」

窓に顔を向けて黙って報告を受けた主人に執事は諦念のため息を内心ついたが

「…お前、娘が3人いたな」
「え? あ、はい」

「どうやったら……娘の父とはどういうものだ?」

氷のように冷たくカチコチの主の頭を溶かした春の女神のウインクを思い出した執事は胸に手を当てて一礼し

「結婚式でお泣きになればよろしいかと」

未来の『花嫁の父』は眉間にしわを寄せてムウッと唸った。

END

物語を紡ぐ / ガラスの仮面

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