涙のあとは

ガラスの仮面

ガラスの仮面の二次小説です。

 ・真澄とマヤは両想い(真澄が婚約中なので恋人未満)

 ・真澄は紫織と婚約中

 ・紅天女はマヤが勝ち取った

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「ほーら、酔っ払い! まっすぐ歩け!」

「はい、はーい」

真澄がため息混じりに声をかけると、軽やかな足取りで先を歩くマヤが陽気に返事する。

この夜は姫川亜弓主催のパーティがあった。

亜弓にすすめられるまま、マヤはシャルドネを数杯飲んであっという間に酔っ払いとなった。

- 速水社長。 マヤさんをお願いしますね。 -

にこりと笑う亜弓に真っ赤な顔のマヤを押し付けられ、追い出される形で二人は帰路に着いたのだ。

「ねえ、速水さん。亜弓さんに良いお医者さんが見つかって良かったね」

「ああ。演劇界は数年に一人の逸材を失うところだったな」

真澄の言葉にご機嫌に頷いたマヤだったが、マヤの目尻に嬉し涙が浮かぶとすぐにその涙は容積を増し堰を切った。

「うわあああああん! 本当に良かったよぉ!」
(泣き上戸か!?)

演劇で鍛えた声は良く通る。

それは泣き声も同じだった。

「ま、マヤ! とにかく泣き止め!!」

「うわあああああん! 速水さんが怒ったぁ」

「怒ってない!!」

周囲の非難するような視線が真澄に集中するから、真澄は冷や汗をかきながら人が少なそうな公園に誘導した。

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「うわあ! きっれーーーい」

泣いたカラスがもう笑う。

公園の中央にある噴水に目を輝かせ、噴水に向かって走って行く頃にはマヤの涙はすっかり乾いていた。

「速水さ~~ん」

「はいはい」

手招きするマヤを追って真澄はゆっくりと歩いて行く。

官庁街にある公園だから人影はない。

「散歩しましょ」

「この寒い中を?」

「だからです! ほら、星が見えますよ!」

嬉しそうに天を仰ぐマヤに真澄は呆れた。

そんな真澄を気にかけることなくマヤは千鳥足で器用に歩く。

「速水さん、見て見て♪」

「はいはい」

「すっごくキレイ♪♪♪」

「はいはい」

「見てってばぁ」

真澄としては天上の星の瞬きよりも、ひらひらと舞うマヤの手の方が気になった。

マヤが左右に振れるたび、ときどき自分の指に触れるマヤの指先。

蝶々のように気紛れに、触れては遠退く。

真澄はその手を捕まえそうになるたびにグッと堪えなければいけなかった。

(今は…未だ)

婚約者の居る自分には未だ言えない。

言ってはいけない。

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「ここは東京なのにキレイだねぇ」

真澄の葛藤なんて気にも留めずにマヤは笑いながら噴水の傍を歩いていた。

一挙一動に心を揺らす真澄としては面白くない。

一方、マヤの方も一向に夜空を見ようともしない真澄が不満だった。

「は・や・み・さんっ」

目の前でマヤが優雅に振り返り、ポスンッと音を立てて真澄の腕の中におさまる。

驚き眼を白黒させる真澄の腕の中でマヤは背伸びをすると

「痛っ!」

マヤは真澄の両頬に手を当てて無理やり上を向かせた。

首にツッと痛みが走り、真澄は声を上げたが

「ほ~ら、見て♪」

「~~~~この、酔っ払い///!!」

怒鳴りながらも結局、真澄はマヤに甘い。

そしてマヤに恋い焦がれている。

だから嬉しくて堪らなかった。

触れ合う体温。

鼻先を擽る花の香りがする艶やかな黒い髪。

(抱き締めたい…)

そんな衝動を抑えるために、真澄は震えるこぶしにぐっと力をこめた。

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「「あれ? どうして此処に?」」

思い掛けないところで逢った真澄とマヤは同時に動きを止めた。

この高級ホテルの最上階にあるバーはほのかに薄暗く静かで、連れのない二人はカウンターで隣り合って座ることにした。

「俺はともかく君はあまり酒を飲まないだろ?」

「……飲みたいときだってあるですよー」

マヤはカクテルグラスを勢いよく傾け、ぐっと煽ろうとした手は真澄に止められた。

「無茶な飲み方はするな」

「…ふんっだ。 説教魔」

「せっ…!?」

ただ心配しただけだというのに、悪態で返された真澄は呆気にとられる。

そんな真澄など気にせずマヤはグラスを持ち上げた。

「このお店、水城さんのお奨めなんです」

「ああ…それで」

- 今日はもう書類はありませんので飲んで帰っては? -

いま思えば不自然なほど寄り道を進めた有能秘書を想いだし、酒に弱い酔っ払いの介抱役に選ばれたことが分った。

全ての合点がいった真澄は小さく笑うと、ロックグラスをカラリとまわしてひと口飲む。

「おじさん臭い」

「放っとけ。 で、何があったんだ?」

「別に」

「だったらそんな泣きそうな顔をするな。唇、震えてる」

真澄の指摘にマヤは慌てて唇を覆い隠した。

その仕草が嘘を肯定していると気付いたマヤは、下手な笑顔を向ける。

「どうせ今夜は暇だ。聞いてやる」

マヤは何度か言葉を選ぶように口をパクパクと動かし、静かにグラスを傾ける真澄をジッと見てから俯く。

「…マヤ?」

「告白…されたんです」

沈黙が流れる。

グラスを握る真澄の手に力が籠ったことだけが、動揺の表れだった。

マヤも見ていれば気づいただろうが、俯いて動揺の片鱗を見ることができなかった。

「へえ」

真澄は声に何も混ぜずに精一杯虚勢をはる。

未だ婚約中の身、まだ二人の関係に変化を望める立場じゃなかった。

「『へえ』ですよね。  速水さんは告白され慣れてるんだし」

「そうでも、ないぞ?」

「嘘つき」

マヤの言葉に真澄は小さく驚いたが、マヤの咎めるような視線に黙り込んだ。

「あんなにキレイな紫織さんが速水さんを好きじゃない」

「っ! 俺は……っ!」

その先の言葉を慌てて止める。

その先をまだ言うことはできなかった。

言ってしまったらきっと、堰を切ったように言葉が溢れだすだろう。

”俺は”の先を問うマヤの視線から目をそらし、真澄はグラスの中身を飲み干した。

「ウイスキーを、同じやつをもう1杯」

真澄は笑って誤魔化し2杯目の酒を注文する。

目の端でマヤの唇が動くのが見えるが何も言わなかった。

” バ ”

” カ ”

(ごめん…もう少し、だけ)

2杯目の酒は、さっきと同じなのにやけに苦く感じた。

気を付けないと身勝手な台詞が飛び出そうになるから、気持ちを押し殺すために真澄は酒を飲み続けた。

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「真澄様」

クラシックのBGMが流れる喫茶店。

先に立った真澄を紫織は呼び止めた。

真澄は紫織のおだやかな表情を見て足を止める。

「私、前に言いましたわよね。 ”とりあえず”結婚して欲しいって」

「ええ……でも、私は…」

「あんな提案…止めて下さって本当に良かった。”とりあえず”の結婚なんて無意味で、悲しいだけですもの」

紫織が頭を下げる。

「いままで自由を奪ってしまって…申し訳ありませんでした」

震える黒い髪が彼女の表情を隠す。

「どうかこのまま…私を見ることなく行って下さいませ」

「…解かりました」

俯いた紫織の視界で真澄の革靴が向きを変える。

「どうか、お幸せに」

「…真澄様も」

どうか彼女とお幸せに、と声に出すことは出来なかったけれど、気持ちが伝わったことは去る真澄の足音から紫織にはわかった。

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「ふう」

喫茶店を出た真澄はしばらく歩いて立ち止まり、紫織に渡された茶色い封筒を丁寧にカバンにしまう。

車を停めておいた駐車場に足を踏み入れた真澄は、車に寄りかかり、じっと足元を見つめるマヤを見つけた。

「マヤ…?」

「速水さん」

真澄の声にマヤが慌てて車から背を離し、真澄と正面から向き合う。

「どうして、此処に?」

「水城さんが教えてくれて…あの…」

「良かった、呼び出す手間が省けた」

「速水、さん?

「好きだよ、好きだ」

不安に揺れるマヤの瞳に真澄は胸が締め付けられ、真澄の口が自然と動いた。

真澄の言葉にマヤの目が大きく見開かれる。

「マヤ、君のことが好きだ。 ずっと好きだった」

真澄は数歩で二人の距離を縮め、腕を伸ばしてマヤをとらえる。

そして細い腰に腕を回し、力を込めてその華奢な体を抱き上げると、驚いた顔をしたマヤを抱き締めた。

伝わる真澄の温もりにマヤの眼に涙が盛り上がり、落ちた雫が静かにスーツに染み込む。

「好きだ。 好きだよ」

「…私も。 私も好きです」

「好きだよ。 好きだ、好きだ。いくら言っても言い足りない」

潤むマヤの瞳と真澄の真剣な目がジッと向き合う。

真澄はマヤを抱く腕に力を籠めた。

「ずっと言いたかった」

「何か…速水さんじゃないみたい」

「俺じゃない?どこが?」

マヤの言葉に笑いながら真澄はマヤを地面に降ろし、靴を地面につけながらマヤは目尻に涙を溜めて悩んだ。

「情熱的で。 えっと…情熱的で……その…」

「ボキャブラリーの乏しいやつだな。 まあ、せいぜい覚悟するんだな。お前はこの先ずっと俺のこんな言葉を聴き続けるんだからな」

真澄は笑う。

真澄の言葉に目を見開いたマヤに真澄は笑い、ゆがんだ唇をマヤの耳に近づけ熱を込めて囁く。

「好きだ」

耳に響く男の熱い告白に、マヤの頬が火照り始める。

「好きだよ」

「速水さん…もう良いよ///」

照れ臭さなのか嬉しさなのか。

涙で潤んだマヤの瞳に映る自分の満足げな顔に真澄は笑う。

「慣れろ」

腕の中で仰天するマヤを真澄は力をこめて抱きしめる。

「言葉にも、こうして抱き締められることにも…」

「…速水さん///」

「これから永遠に続くんだからな」

「っ///!!  …は、はい!!」

勢いよく頷くマヤの顔から涙が散る。

散った涙が陽の光りを反射して、いつか二人で見た星空のように中空で煌めき舞った。

pixiv30users入り pixiv50users入り pixiv未掲載 【シリーズ】Serinette いつもの二人 じれったい二人 オリキャラがいます クリスマス クロスオーバー スパダリ セコム ハロウィン バレンタイン パラレル ブログ移設後未修正 プロポーズ(求婚) ホラー リクエスト 七夕 上司と部下 両片思い 元カノ・元カレ 原作のたられば 原作終了後 告白 大人の恋愛 夫婦 妊娠 子世代 恋人同士 恋人未満 捕らわれの姫君 未来捏造 死別 溺愛 異世界 白馬の王子様 秘密の恋人 第三者視点 素直になれない天邪鬼 結婚式 艶っぽい 花火 誕生日 過去の因縁

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