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「で、やっと婚約解消出来たけど未だ二人の関係は秘密と?」
聊か呆れたような亜弓の声に「二人の関係なんて特に」と乙女な反応をしたマヤ。来年もまた来よう、と去年約束した通り、ドイツから帰国した亜弓はあの人同じテーブルを予約した。
「今回は自分でメニューが見れるから楽だわ」
「んもう。 私も結構読める様になってきたんだよ」
慣れてないだけだったと脹れるマヤに
「速水社長も結構良い処に連れていってたみたいね」
「亜弓さん、よく知ってるのね」
わからいでか、と亜弓はこの1年間の真澄の手によるマヤの変化に驚いていた。
キレイになったはもちろん、去年はランチの注文にさえあたふたしていたのに、今ではディナーの席で難なくワインを選ぶ。
「この前飲んだとき美味しかったやつだから」
誰となんて聞くだけ野暮。楽しかった思い出に頬を染めるマヤに亜弓は微笑んだ。
「前も思ったけど、亜弓さんってお酒強いよにぇ」
「…そう?」
語尾が怪しいマヤの言葉に亜弓は飲んでいたグラスを見て首を傾げた。
乾杯はスパークリングワイン。前菜で始まるときは辛口の白ワインで、メインコースが来るころにはフルボディの赤ワインにかわっていた。
「ほとんど亜弓さんが飲んでるしぃ」
「かもね」
マヤの指摘に少しだけ肩を竦め、亜弓は酔いながらもしっかりとケーキを食べるマヤに微笑んだ。
そして自分たち以外客のいない店内を見わたし、馴染みのウェイターに目配せして今にも眠りにおちそうなマヤのガードを頼む。彼以外にも、姫川家御用達のこの店のスタッフは全員信頼できる。
「ちょっと電話して来るわね」
「いってらっしゃーーい、ごゆっくり」
恋人への電話だと思ったマヤはニシシとしか表現できない声で笑った。
「あら、ご到着ね」
窓ガラスを白く輝かせた車のヘッドライト。駐車場に停めるため点されるバックライト、白の次は淡い紅色に店内を染める。
「梅の谷のようできれいだけど………残念ね」
人工的に作り上げられた梅の谷の中で紅天女はすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。
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