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「何だ、こんなところで寝ているのか」
高級そうな革靴が床を叩く音と呆れ声。「亜弓君、連絡ありがとう」と、マヤから目を移した真澄に亜弓は微笑んだ。
「外で彼に会ったよ。すまない、待たせてしまったかな?」
「彼でもマヤさんには勝てないわ。1人にして泣かせたくないもの」
耳が痛いね、と真澄は苦笑する。
「君たちはこれからデートかい?」
「ええ。外で張り込んでいる記者さんたちは全員連れて行くので安心してくださいな」
亜弓の敏い笑顔に真澄は苦笑すると同時にクロークから亜弓のコートを持ってきたウェイターが現れる。優雅に立ち上がりコートを受け取った亜弓に真澄は1枚のカードを渡す。
「速水の名でこの店を予約してある、おごるよ」
「ありがとうございます」
亜弓がカードを丁寧にバッグに入れると同時にカランッとベルが鳴って亜弓の恋人・ハミルが現れる。真澄が来たというのに出てこない亜弓に焦れたようだった。
「それじゃあ」
「ああ、彼にもありがとうと」
「早く”口実”なんて必要なくなると良いんですけど」
亜弓の皮肉に真澄は苦笑し、手を伸ばして眠るマヤの髪を優しくなでる。
「大事なわが社の看板女優の食事会。遅くなったので所属会社の社長が送り届けようとしたが、1人は恋人がきたのでもう1人だけをおくる……感謝するよ」
「あら、マヤさんのためですから」
あなたからの礼は結構、と言わんばかりのハッキリとした亜弓の言葉に真澄は笑う。
「水城君といい亜弓君といい、俺の周りはそういう奴ばかりだ。君たちがいなかったらマヤにとうに振られているな」
「あら、心にもないことを。振られるおつもりなどないくせに」
「そんなことないよ。マヤに泣くほど拒絶されたら小心者の俺には何もできない……だから俺はマヤの逃げるところを無くしたいとさえ考えるんだ」
きっとマヤに知られたら怖がるだろう。思わずそう亜弓が感じるほどの独占欲と執着心。
「誰かに盗られるくらいなら…いっそ壊してしまおうとさえね」
焼き焦げそうな程の熱い瞳でマヤを見る真澄に亜弓は背筋をゾクリと震わせた。
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