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(先輩はいつでも格好良いデスけど)
風邪をひいて欲しくないな、なんて思うことは、今までののだめにはなかったこと。
あまり周囲を気にしたことがなかったのだめ。
一番大事なのは自分の感性で、「楽しければいいじゃない」でずっと生きてきた。
(そう言えば初めてデス)
何かを目指して頑張ること。
成る様に成れば良いがモットーなのに、いつの間にか千秋の傍にいるために色々考えた。
そしていろいろ考えた。
どうすれば一番千秋が幸せになってくれるのか。
「きれいデスね」
― あなたは将来フランスに行くでしょう ―
5年前なら、いや千秋に会う前の日まで、「そんなことはあり得ない」と鼻で笑っただろう。
でもあの出会いが今の現実を招き、のだめはいま千秋と雪が降るパリの夜道を歩いていた。
まもなく迎える新年用に飾り付けられた街路樹たち。
通りは人で溢れていた。
「逸れるなよ」
そういって伸ばされた黒い手袋をした大きな手をじっと見て、のだめは千秋の顔を見る。
(気づいてないデスよね、先輩鈍いし)
少しだけドキドキする心。
ずっと一緒にいるのに、千秋の部屋に押しかけることも多いのに。
一緒にご飯を食べて、一緒に長い夜を過ごしていても
「うっそ、あんたたちって恋人同士じゃないの?」と、同じアパルトマンに住むいつも恋に恋するロシア人の女の子なんて不思議がる。
でも事実、恋人ではないのだ。
(…デス、よね?)
正直いまは解らない。
この前のクリスマスから少しだけ、千秋が変わったようにのだめには思えた。
のだめだって女の子で、好きな人の変化はわずかでも感じとる。
「ありがと、デス」
優しい瞳に心をドキドキさせて、千秋の大きな手に自分の手をのせる。
「何か」
少しだけ近くなった千秋の言葉に、のだめの心臓が不協和音を奏でて弾む。
「何か、お前がしおらしいと気持ち悪いな」
相変わらずの憎らしい言葉に、少しだけのだめは安堵して今まで通りの反応を返す。
「ムキャー、失礼デスね」
こういうのは簡単だから
(恋人もどきの雰囲気は苦手デス)
のだめは足元にホッと白い息を吐いた。
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