背後にご注意ください(ふるあず)

ダークバッチ

名探偵コナンの二次小説で、pixivで人気だからと図に乗って「降谷零×榎本梓(ふるあず)」で妄想しました。

黒の組織崩壊後の設定です。

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「いってきます。今日は遅くなるけどイイ子にしててね」

梓はゴロゴロと喉を鳴らす愛猫『大尉』の頭を撫でながら、その隙をぬって靴を履く。

スリスリ スリスリ

それを邪魔する動きは執拗で、思わず梓は苦笑する。

「あのね、浮気じゃないの。これも社会勉強、大人の付き合いってやつなのよ?」

なうん

「直ぐ帰ってくるから。いつだって大尉君が一番だよ」

梓の言葉に納得したのか、ようやく離れた愛猫にすりつけられた足元をみて梓は笑う。

毛が少しついている程度だが、他の猫からしてみたらぷんぷん臭うくらいにマーキングされたに違いない。

困ったような笑顔は、腕時計を見た瞬間に消えて、梓は慌てて玄関を開けた。

その朝はバス停までの猛ダッシュから始まった。

結局バス1本分遅れてポアロに到着したため、梓は慌てて開店の準備をしていた。

いつもより雑な字で「きょうのおすすめ」を書き、時計の長い針が12を回っていることに慌てて看板を出そうと扉にぶつけていたら、半袖から伸びた長い腕が梓の代わりに看板を支えた。

「手伝いますよ」

元高校生探偵で今は大学生の新一の言葉に甘え、カランッと音を立てて店内に入った梓は急いでカウンターの内に入る。

「ありがとう。 今日は蘭ちゃんとデート?」

「ええ。 ブレンド、お願いします」

注文を終えた新一は、階上の自宅から蘭が降りてくる階段に一番近い席に座って推理小説を開く。

デートの日は必ずここで蘭を待つ、それが江戸川コナンから工藤新一の新たな習慣だった。

梓には「約束に律儀な彼氏」なのだが、蘭の友人の園子に言わせると「今までの罪滅ぼし」とのことだった。

「コーヒーと、これさっきの御礼。切る位置を間違えちゃってお客さんに出せないやつだから食べて」

「ありがとうございます …あれ?」

お礼を言った新一は違和感に首を傾げる。

いつもと同じコーヒーの香り、ケーキからほのかに漂うさわやかなレモンの香り、そしていつもはない石けんのようなニオイ。

「梓さん、今日は何かつけてます?」

「さすが名探偵! コロンを少し、ね。気になる?」

「いいえ、良い匂いだなってくらいですよ」

普段の梓は飲食店に勤務しているため、人工的な匂いを身にまとうことはない。

そんな梓が身にまとう香りは嫌味のないスッキリしたもので、でもどこか甘さがあって、『梓に似合う良い香り』と新一は素直に評した。

そして新一は失敗した。

ここで止めておけばよかったのに、「なぜ梓がいつもと違う行動をしているのか」が気になってしまった。

好奇心は猫をも殺すのだ。

「今日は何かあるんですか?」

「うん、友だちに合コンに誘われたの」

梓の回答に、新一は深く深く後悔することになった。

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「おはようございます。 やあ、新一君。久しぶりだね、元気だったかい?」

朝に似合うさわやかな笑顔と共にポアロの扉が開くと、新一の手元にあるコーヒーの湯気がゆらりと揺れた。

「早かったですね、今までカイシャですか?」

「何がだい? 朝食の時間にはちょうど良いだろう?」

そういって微笑む降谷は爽やかだが、その目の下には真っ黒なクマがいた。

降谷がこんな顔になるくらいの大きな事件は何かあっただろうか。

先ほどの後悔も反省もなく、新一の好奇心がむくむくと膨らむ。

(いけない、いけない。今日は蘭とデートの約束、デートの約束、デートの約束)

のこのこと顔を出しそうな好奇心をぐっと堪え、早く蘭が来ることを願いながら未だ熱いコーヒーに口をつける。

「モーニングセットをお願いします。 新一君、公私共に充実しているようでなにより。恋人と共にキャンパスライフとは羨ましい限りだよ。そうそう、服部君は元気にしているかい?」

「ええ、元気ですよ?」

9割以上八つ当たりではあり、妙に含みのありそうな問いかけに新一が慎重になるのは致し方ない。

「元気か、何よりだね。何しろ人間30歳を超えると一晩の徹夜でも辛くてね。しかし、カイシャも人材不足で俺も休みが取りたいなんて言える雰囲気じゃないんだよ。ほら、あの真っ黒な人たちの処理や酒のトラブルの後始末とかね。もう小学生の手を借りたいくらいの忙しささ」

「…そうですか」

目をそらしながら降谷の圧に新一が耐えていると、ポアロの扉が開き蘭が入ってくる。

朝日をバックに背負った登場なこともあり、新一には蘭が天使にも見えたが、

「おはようございます、毛利さん。朝から煩くても申し訳ありませんでしたが、毛利先生から伝言はお聞きですか?」

「はい、わざわざありがとうございます。でも、本当に良いんですか?」

「ええ、女性限定のスイーツバイキングに男の俺はいけませんので」

「ありがとうございます。あのホテルのスイーツは美味しいって大学でも評判で、園子や和葉ちゃんと行ってみたいねって話していたところだったんです」

「それは良かった」

にこにこ、にこにこ。

嬉しさ全開で笑顔を浮かべる蘭とそれに笑顔で応える男、新一はすっかり蚊帳の外。

イヤな予感だけがビシバシと突き刺さり、

「ごめんね。降谷さんがくれたバイキングが今日限定のチケットなの。和葉ちゃんも一緒だから、新一は服部君と遊んであげて」

「…うん、分かった。まあ、服部と遊ぶかどうかは解らねえけど」

「ありがとう♡」

新一が蘭のドタキャンに怒ることはない。

なにしろ新一にはドタキャンの類の前科が山とあるのだ。

そもそも蘭が嬉しそうなら、それだけで良いのだ。

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「いやあ、悪いね。デートだって知っていれば別の人にあげたんだけど」

「いえ、蘭が嬉しそうならそれだけでいいので」

「いやあ、恋人の鑑だね。あ、新一君、このあとの予定は?」

「がっつり暇です、俺も、服部も」

「それなら俺のカイシャに来ないか?夕飯おごりるよ(、風見が)」

「わあ、うれしいなぁ」

蘭が去ったので仏頂面を隠さない上にちっともそう思っていない棒読みなど気にせず、にこにこ笑いながら降谷はカウンターの内側で羨ましそうにしている梓に顔を向け、

「すみません、本当は梓さんにもあげたかったのですが今日の今日では予定が立たないと思いまして」

「そんな物欲しそうな顔してました!? まあ…残念なのは本当ですけど、まあ仕事もあるし、このあと約束もあるしで結局行けませんし」

「あれ、今夜何か予定があるんですか?」

「はい。友だちに誘われて合コンに」

「そうでしたか」

(なーにが”そうでしたか”だ、ばっちり聴いていたくせに…白々しいけど嘘に見えないからスゲエな)

「そうそう、このあと天気が荒れるそうですよ? 先ほど雨も降ってきましたし、無理はしないでくださいね」

「え!? 本当ですか?」

カウンターから慌てて出てきた梓が扉を開けて空を見れば、そのおでこにぴちゃっと雨があたる。

はあ、吐息を履いて店内に入り、入口の脇に傘立てを設置する。

「どうしたんです?」

「実は今日朝慌てて家を出てきたから傘を忘れてしまって」

「ああ、それなら俺の傘を使ってください。車で来ているし、いざとなったら新一君の傘に入れてもらいますよ」

ね?と言葉のウラにある無言の圧力に逆らえず、新一は首を縦に振るしかなかった。

「じゃあ、お言葉に甘えて。御礼にモーニングセットは私のおごりです」

「じゃあ、俺は新一君にモーニングセットをおごろうかな」

「ありがとうございます…降谷さん、いま着てるそれってレインジャケットですよね?それ、梓さんが着ればレインコート代わりになるんじゃないです?」

「ああ、さすが新一君だね。俺じゃそこまで気が回らなかったよ」

「いえいえ、流石にそこまでは」

「今夜は昨日に比べてかなり気温が落ちるそうですよ?男物ですが、色はライトベージュなので女性が着てもそこまで変にはならないかと。俺としては梓さんが風邪をひいて、ここがお休みになる方が困るので」

「…じゃあ、お言葉に甘えます。お詫びに合コン頑張ってきますね」

「あはは、頑張ってください」

(男物の傘とジャケットにマーキングされた状態で行った合コンで何を頑張るんだろう……ていうか、降谷さん、目怖っ、全然笑ってねー。こんな状態の降谷さんの仕事手伝うなんてぜってえイヤなんだけど)

はあ、とため息を吐いた新一は普段はブラックで飲むコーヒーにミルクを目いっぱい入れた。

背後にご注意ください(ふるあず)

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