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「私と会う前の敦賀さん」
自分の知らない過去の恋人を知れる機会に喜ぶキョーコを見ながら、蓮は黒いマグを傾けてコーヒーをを飲む。
画面の中の自分は未だキョーコに会っていない。
このあと運命…とはいえない、まあそこそこの出会いをするわけだが、ふと『あのときキョーコに出会わなかったら』と想像してしまった。
なぜあのとき、あの場所にいたかはもう分からないが、人の出会いなどタイミングが全てだ。
たった1秒違うだけで今が変わり、キョーコには会えなかったかもしれない。
想像だけで苦味が増したコーヒーに蓮は眉を顰め、マグをそっとテーブルに置いたとき
『愛してるよ』
画面の中で愛を囁くのは、愛を知らない幼い自分。
ふと、「図体だけは一丁前」だと笑った彼を思い出す。
あのときの彼の年齢をとうに超えたのに、蓮が思い出す彼はいつも”頼りになる優しい兄貴分”。
彼は蓮のことを「ガキ」と呼んだ。
恋に恋するような、愛を知らないガキだと。
そう言われるたびに何と返したのか仔細は忘れたが、毎度ヤケクソ気味に反発していた記憶があった。
「ガキだなぁ」
「え? 何か言いましたか?」
彼が自分を子ども扱いした理由を、いまの蓮には理解できた。
首を傾げてこちらを見る、彼の彼女と同じ愛しい存在が自分にもいるからだった。
キョーコの言葉に答えはせず、蓮はキョーコに手を伸ばす。
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