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自分の心に素直になって広げた腕に香が飛び込んできた夜、香は獠の腕の中で女に化けた。
まるで羽化したように、男と間違えられた風情はどこへやら、健康的に色気を振りまく美しい女に変わった香を周囲は放っておかなかった。
数多の男が香に魅せられ、それこそテンプレートのように求愛する。
鈍感な香は「とりあえず友だちから」で始まる男共の求婚行動に気づかず、「友だちなら」と受けそうになるのを何度獠が裏から手を回したか。
人間の男女は求愛から始まり、いい年齢になればその多くが求婚へと発展していく。
獠には求愛は七転八倒の結果できたが、求婚はできない。
日本どころか世界中どこの国にも登録されていない獠には「伴侶」とすることも、なることもできない。
できるのは「曲がりなり」の形でそばにいるだけで、仕事上「永遠」の約束もできない。
「ん?」
50メートルほどの距離をつかず離れずで見ていた香の後ろ姿がピタッと動きを止める。
高得点の後ろ姿がくるりと回るのが獠の目に入るのと、振り向いた香が獠に気づくのが同時で、
「獠? どうしたの、一体? 飲みに行ったんじゃなかったの?」
「ちょっとな。 お前こそ、どこに行くんだ?」
「二丁目の託児所。 七夕飾りが足りないって言ってたから」
「なるほど。 ここのとこお前が部屋に引っ込んでせっせと作ってたのはこれってわけか」
香が掲げた紙袋に手を入れて、獠は紙人形をつまみ出す。
「あんたがよくいく店のママに頼まれたの。あんたが貯めたツケを返す当てもないし、私が頑張るしかないでしょ」
「おー、偉い偉い」
「お礼が軽っ! 全く…あんまり折り紙得意じゃないのに、頑張ったのよ?」
「確かに、これなんて着物が一部破れてるし……ずいぶん不器用な織姫様だ」
「…サボり魔のあんたはちゃんと牽牛らしいじゃない」
「それじゃあ、牛縛りで夕飯に牛丼をおごってやろう」
「安っ! お礼なら奮発してステーキくらいご馳走しなさいよ」
「財布はひとつなんだぞ?」
「………我慢します」
コメント
冴羽さんの思いの変化と夜の2人の会話が素敵です。読ませていただきありがとうございます。
嬉しいコメントありがとうございました。
イベントも始まりましたので、ぜひご参加下さい(匿名で参加可能です)。
naohn