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「夏のニオイがするね」
「ジメジメして雨が降りそうですね。小雨ですめばいいんですが」
「ダリヤは花火が好き?」
「はい。ヴォルフは?」
「母が亡くなってからはずっと一人で見てるし、良い想い出も悪い想い出もないな」
前世の花火は送り火でもあったな、と思いながらダリヤはヴォルフに擦り寄る。滅多に人前では甘えないダリヤの珍しい行動に、送させた自分の弱気に笑いながら、ヴォルフはダリヤの腕に回った手を優しく撫でる。
「もう大丈夫、ダリヤに出会ってから一人で見ることは無くなったから」
「来年はみんなを誘いましょう」
「それも良いね。 ダリヤ、あの露店じゃない?色は違うけど似た魚がいる」
ヴォルフの指さす方をダリヤが見ると、さっき見た魚と似た魚がたくさん泳いでいる露店があった。「いらっしゃい」と気さくに声をかける店主にヴォルフがことの経緯と説明すると、
「この魚は俺の国から連れてきたから、取り扱ってるところは他に知らないし、うちの魚だと思う。まあ、これも何かの縁だし、あんたたちが良ければこのまま飼ってやってくれよ」
「この魚は魔物ですか?あと、どのくらい大きくなりますか?」
「魔物だけど特に悪さはしないし観賞用として水槽で飼って問題ない。ここにいるのは既に成魚だから、これ以上は大きくならないね」
それなら、とダリヤとヴォルフが思いかけたが
「落ちてたのは赤だったって言ったよな。この魚は”恋をすると赤くなる”っていうんで、恋人のお守りとして俺の国では人気なんだよ」
待って欲しい。落ちていた時点で赤かったということは、恋をしていた相手とはぐれたのではないか?そんな魚をお守り、つまり愛しい相手と引き離したままにしたら恨まれるのでは?
「この魚の求愛行動は激しいんだ。この国では恋をすると火の魔石を投げ入れられたって言うんだろ?同じようにこの魚は体温が上がると赤くなって求愛行動を始める、だから『恋をすると赤くなる』って言われているんだ」
「恋が叶わないとどうなるんですか?」
「多少逆上せて動きは鈍くなるが、それだけだな。赤くなるのは大体その季節の間だけだし、そのあとは元の紺色に戻って何事もなかったようにスイスイ泳いでいるよ」
「たくましい」
生き物として適わぬ恋に時間をかけていられないのだろう。ヴォルフの納得した声にダリヤは同調しつつも、店主の周りにいる夜の空のような紺色の魚を見ながら保護した赤い魚を思い出す。
例え一時の恋でも、恋は恋。
「魚、このあと持ってくるので他の子と一緒にしてあげてください」
「ん、いいのかい? 見ていてキレイだと思うんだが」
「キレイですが、あの子の恋を応援してあげたいんです」
ダリヤの言葉に店主は軽く目を見開き、ダリヤとヴォルフを見比べて「ずいぶんと良い恋をしているようで」と微笑んだ。
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