「I LOVE」のハードル

シティーハンター

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ああ、参ったな。

昔の俺の世界は闇のような真っ黒で、憎悪とか嫉妬とか殺意とかどす黒い感情を向けられても染まらなかった。

LOVEを知らないわけでもない。これまでの人生で「おっ♡」と思う美女に出会い、互いに都合が合えば彼女は俺の、俺は彼女の、One Night Loverになった。

偽名を名乗ろうが、年を偽ろうが互いに気にしない。俺も彼女を見ていないし、彼女も<俺>を見ていない。そんな関係だ。彼女が愛を囁く赤さえも、俺の闇の黒には勝てなかった。

でも俺の世界はもう黒くない。

One Nightでは到底足りない女に会ったから。

「香」

名前を呼ぶと視界で香が振り返る。さっきの言動のせいで頬は膨れているけれど、その目は優しく俺の言葉をまっている。

ああ、まるで聖母様。香を包む白い光が美しすぎて目が眩みそうだ。

白はほんとうに厄介だ。

いままで黒一色で何にも揺るがなかった俺の世界が、何でもスマートにこなせた俺が、意味格好悪い感情に染まって戸惑いしかない。こんな世界で生きている香に驚きと、ほんの少しの劣等感を感じたりする。

「香」

また名前を呼んで今度は手招きをする。指先が触れられそうなほど近づいてきたとき、俺は立ち上がって一歩踏み出し、二人の距離をゼロにする。

「香ちゃん、メイクラブしようよ」

『I Love You』を素面でまだ言えないけれど、まあ、言える日が永遠に来ないような気もするけれど、まずは得意なLOVEから始めよう。

「…まだ明るいし」

拒絶されなかったのを良いことに、俺は香を躊躇させる陽の光をカーテンを引いて遮る。明るかった部屋は薄鼠色になり、さっきまではつらつした健康的な香を、色気溢れる妖艶な姿に染める。

薄鼠色でも俺には少し明るすぎる世界だが、慣れればこれも悪くない。

羞恥で桜色を濃くした香の顔だって見えるし、俺の提案を受け入れるように香の濃い色のまつ毛が伏せられるのもよく見える。

香の腕が伸びてきて俺の首に重みがかかれば、香のにおいが鼻腔を満たす。ああ、なんて優しい世界なんだろう。I LOVE YOUって言える気がする。

「どのくらいで言えるかな…2、いや、3?」

「何を?」

「んー、3ラウンド目までのお楽しみ♡」

「一体何回す……んぅっ」

抗議の声を唇を重ねて遮ると、香を抱き上げて自分の座っていたソファに沈めた。

コメント

  1. しま。 より:

    素敵なお話、リクエストに応えて頂きありがとうございました。(*^^*)
    その辺りの女性とは違う香ちゃんから与えられる色(光)は獠にとっては
    何よりも嬉しい事なのかなと
    長年の天邪鬼が素直になるのは大変ですけど、素直になったらたくさん「好き」と「愛してる」が言えるようになるんでしょうね。

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