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次の日の朝、無粋なチャイムの音に気づき目が覚めたのは真澄だった。
「気のせいじゃ無かったかぁ」
実はさっきのチャイムは2回目。1回目は夢心地、ぼんやりと覚めた脳に響いたのがさっきの2回目。急がないと訪問者が焦れて3回目を鳴らすだろう。
「全く、マヤが起きるだろうが」
ぶつぶつと文句を言いながら体を起こしているが、穏やかに眠るマヤを見る真澄の表情はとても優しい。「あとでな」と二度寝のまどろみを約束した真澄はベッドから出る。
足音は気にせず扉に向かい、扉のスコープから見えた予想通りに人物ににやりと笑う。
(逆上せた若造には灸をすえないとな)
3回目のチャイムが鳴った直後に真澄は扉をあける。
一方、訪問者こと大都芸能の人気俳優は開いた扉の先に立つ人物をよく確認せず、メディアで公開している笑顔の花を咲かせ、
「おはよう、マヤ」
「君は俺がマヤに見えるのかな?」
対抗するように真澄が笑顔の花を咲かせると、野崎の顔は一瞬の驚きの後で真っ青になる。
「速水…社長?」
「こんな早朝に訪ねてくるとは非常識じゃないか?」
「いま10時過ぎたところなんですけれど」
咄嗟に腕時計を確認した野崎が恐る恐ると返すと、真澄はわざとらしく驚いた顔をして
「ああ、もうそんな時間か。 甘い時間は過ぎるのが早いな」
男なら分かるだろうと問いかけるような意味深な真澄の笑顔に、事態を把握した野崎は悔しそうな表情を浮かべる。
野崎にとって疑いようもないほど現実を受け入れるべき状況だが、認めたくないと思いが先行し
「どうしてここに?」
未だ足掻く野崎の度胸に真澄は敬意に近い想いを抱き、同時にマヤを苦労させたへこたれない精神を垣間見る。
ここは決定打が必要だと冷徹な鬼社長と、独占欲をむき出しにしたただの男が共闘する。
「私が恋人のところに来てはおかしいかな?お互いに成人した男女なのだし、合意の上なのだが」
くすくすと笑いながらも真澄は内心で出る杭をガンガンと全力で打ち込む。流石にそこまでやれば杭だってへこむ。
「そう…ですね。あの……早くから失礼しました」
「いや、構わないよ。まだ時間は十分にあるしね」
にっこり笑って止めの一打を打ち込み、扉を閉めた真澄は自分の首尾を分析する。
真澄がマヤの相手役に推した通り、野崎は同世代の俳優の中では一、二の実力を誇る。年齢と実力のバランスにより多少驕り高ぶる傾向はあるがそれも必要。想い人が出てくるはずの扉から男が出てきても咄嗟の反応ができるほど冷静な判断力もある。
「それでも掛かってくるなら相手をしようか」
真澄としては野崎の恋心だけでなく横恋慕しようなんて考えも打ち砕いたつもりだが、マヤを蚊帳の外においたタイマンでは闘志をあおる結果にもなりかねない。
男に威嚇されてすごすご追い下がれるほど、そんな簡単な女に惚れていない自覚が真澄にはあった。
「まあ、誰にもこの場所は譲らんがな」
だてに”紫のバラの人”をやってきていない。
マヤの喜ぶこと、楽しむこと、それを与える経験、社会的地位、財力もすべてそろえた。
「会いたかった」といって嬉しそうに微笑んでくれたマヤのためならそれらを強化することもやぶさかない。
女優・北島マヤの隣も、ただの一人の女であるマヤの隣にも、自分以外を立たせるつもりは真澄には微塵もなかった。
END
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