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「ここって…靴屋?」
「そうだが?」
「”お買い物”なら後にして頂きたいのですが?」
「…何をそんなに怒る?」
問うクンツァイトの視線にハッとした美奈子は内心舌を打つ。
言えるわけがない。
店内に並ぶのは明らかに女性ものの靴。男であるクンツァイトがここで買うなら『誰かのため』に他ならず、美奈子としてはそれを見たくなかったし、誰の為かなど想像もしたくなかった。
イライラするけど理由を言えない美奈子は黙るしかない。黙り込んだ美奈子を無視するように女性店員がクンツァイトに近づいた。思慕や憧れで頬を赤く染めるその店員に美奈子は背を向け、
「早く済ませてよね」
「すぐに終わる。 まあ、お前が協力さえすればだがな」
「は?」
クンツァイトの言いたいことを理解しかねて問い返す美奈子を、片手で引き寄せたスツールに無理矢理座らせ、慌てる間もないほどの手際で美奈子の足から靴を取る。ひやっとした空気に包まれた爪先を美奈子は思わず丸めた。
「ちょっと」
抗議する美奈子を無視してクンツァイトは女性店員に何やら話しかけ、女性店員はハズレを引いたような顔を一瞬だけした後は商売人の人好きのする顔をして、あっという間に靴を数種類並べる。
「この靴じゃまた転ぶからな」
「…給料日前なんだけど」
「誰が”買え”と言った? もちろん買ってやる」
「経費で落とす?」
「お前…いつもそんなことをしてるのか?」
「するわけないでしょ! …冗談よ!」
「為政者の側近として笑えない冗談だぞ……まあ、いい」
美奈子の言葉を反芻しながらクンツァイトが美奈子の足から顔を上げれば、その表情から美奈子の上段が下手な照れ隠しだと理解した。耳まで真っ赤にした美奈子と目が合ったクンツァイトは内心で笑う。
クンツァイトの大きな手の中にすっぽり収まる小さな形の良い足。興が高じて偶然を装いながらクンツァイトが親指の腹で側面をなぞれば、緊張で固まる足は男の戯れに慣れない感じを隠せずに敏感に反応を示す。
「ちょっと!」
「で、どれにする?」
「……これ、がいい」
美奈子が指さしたのは銀色のブーツ。暖色系を好む美奈子にしては珍しいと思いつつ、店員を呼んで会計と一緒に美奈子が履いていた靴を包んでくれと頼む。
「いい靴はその人を幸せに導いてくれる」
「へえ、そうなんだ」
いつも美奈子が買う靴より0が2つ多い靴のはき心地は文句なし。厳冬の地域で売っているだけあって、華奢な見た目とは対照的に中はモコモコの高級素材で気持ち良かった。
(…ちょっとだけ王子様みたいって思っちゃったじゃない)
店員にカードを渡すクンツァイトの手から美奈子は眼が離せなかった。
美奈子の頭に浮かぶのは数分前の、跪いて優しく靴と足に触れる優しい仕草。それは世界中の女の子が憧れるシンデレラのようで。
(でも私はお姫様じゃない、お姫様になりたいと思ったこともない)
自分の足をすっぽり包む手の平は大きくて、少し冷たい手の平はとても心地良いと感じたけれど、武人らしい硬い皮膚と剣をもってできたタコの感触に思ったのは安堵。
この男は共に戦えるということ。
(相棒…?同志…?この気持ち、あんたはどう思うかしら?…なんてね)
美奈子にはクンツァイトの答えが何となくわかっていた。問うた美奈子に向ける目はいつものように少し呆れ気味で、「お前らしい」と当たり前のように答えると。
「さ、道草食った分急ぐわよ!」
さあ、行こう、お互いに一番大切な人を護るために。
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