名探偵コナンの二次小説で、新一×蘭、赤井秀一&宮野志保、降谷零&榎本梓です。
pixivで「秀志」「ふるあず」のCPに萌えて妄想しました。
シリーズになっています。
第二弾は赤井の恋人である、小学生の灰原哀から元の姿に戻った天才科学者視点です。
第一弾「看板娘の爆弾発言」
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「また来て下さいね」
そういって微笑む梓さんと、その前でサバの味噌煮を美味しそうに食べる降谷さん。
両片思いの、まるで新婚さんのような二人を入口の扉の向こうに閉じ込めて、少しだけ楽しい気持ちで大学に向かう。
工藤君のように一緒に行く人がいるわけではないけれど、一人ではない。
手首で揺れるブレスレットの紅玉、その向こうにはヘイゼルの瞳の持ち主がいる。
「これ、工藤君はイヤみたいよ」
揶揄うように言っても返事があるわけじゃない、でも笑っている彼が容易に想像できる。
この紅玉に見せかけているものは高性能の盗聴器。
工藤君からしてみたら『盗聴』なんてプライバシーの侵害の最たるものなのだろう。
分からないでもないけど、少し理解できなかったりする。
だって私にとって盗聴されていることは普通。
組織にいたころは盗聴どころか常に行動を監視され、全てに制限があった。
それに盗聴ならば、灰原哀時代だって彼にされていた。
まあ、聞かれて困ることも特にない。
便利だと思うこともある。
そう、いつだったか雪の日の買い物が面倒で「あら、醤油が切れちゃった」と呟いたとき、隣の大学院生から『おすそ分け』で醤油がもらえたこともあった。
「大学に到着、と」
大学の門をくぐりながらつぶやく。
あっちにも仕事があるから四六時中聴いてはいないだろうが、何となく状況を口に出す癖がついてしまった。
大学についた、なんて内蔵されているGPS機能ですぐわかるのにね。
ブレスレットを少し揺らしてみれば、紅玉もどきに朝日が白い線をいくつか描いて、それはあの人の愛車を彷彿させた。
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赤井さんは組織壊滅後に何食わぬ顔で、シレッとFBIに復帰した。
そして白々しいことこの上ないが、「残務処理の協力のため」来日したことにして当たり前のように生活をしている。
全く、死ぬのが勝手ならば生き返るのも勝手だ。
そんな男なのだから、FBIのお偉いさんの説教だってどこ吹く風で難なくいなす。
生還に対する彼の感想、「デスクの私物を処分されていて参った」の一言だけだった。
対して、真純さんは兄の生還を喜びつつも、不用意に家族を悲しませた兄に激怒していた。
感情が薄い私でも少し腰が引けるくらいの怒号だったのに、赤井さんは「必要だからそうした」というだけ。
もう呆れるしかない。
いつもシレッと、飄々としていて無頓着。
何となく身近で、つかず離れずの距離にいた彼から連絡をもらったのは生還して3日ほど経ったとき。
「ホテル生活は気をはって疲れる、君のマンションに空き部屋はないか?」
組織が壊滅し、元の姿に戻り、宮野志保は阿笠邸からほど近いマンションに引っ越した。
工藤君のお母さんが用意してくれた部屋は一人暮らしには過分で、部屋も余っていたから彼の同居を了承した。
さすが、生きるも死ぬも瞬時に決める男。
了承して数時間後には私のマンションで暮らし始めた。
私と彼の同居について、日本の機関は渋い顔をした。
特に私の母が初恋だったという降谷さんは、赤井さん嫌いも重なって猛反対だった。
しかしその他期間は「ボディーガードの同居は合理的」と言って反対しなかった。
ここら辺は文化の違いとしか言いようがない。
他人が同じ空間にいることには慣れていたこともあるだろうけど、赤井さんとの同居は私の予想以上に楽だった。
お互いに口数は少ないので沈黙は気にならないし、パーソナルスペースが似ているため不用意に相手の領域を汚すことはなかった。
ブブッとスマホが震え、僅かな過去に戻っていた思考を戻す。
画面を見ると母の姉であり、赤井さんの母であるメアリーさんの簡潔なメッセージ。
「メアリーさんが、明日食事を一緒にだそうよ」
聞いているか分からないけれど一応報告。
紅玉もどきが嫌そうに光った感じがして少し笑えた。
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赤井さんと私が従兄妹だと知ったのは、赤井さんと同居して直ぐのこと。
「秀兄に会いたい」という世良さんの要望を受け入れてマンションに招けば、灰原哀が少し成長したくらいの少女が一緒にいた。
彼女は赤井さんの母と名乗り、薬のせいで幼児化したと、まるで他人事のように口にする。
その頃には解毒剤ができていたが、彼女が言うには私が飲んだよりも少し前の毒薬を飲んだようで作った解毒剤が効かず、解毒薬の改良をして欲しいという要求だった。
恐らく聞いて状況を知っていた赤井さんが、珍しく慌ただしい足音を立てて帰宅し
「…本当に母さん、か?」
「証明しよう」
そう言ってメアリーさんが早口でまくし立てたのは、赤井さんが…まあ、他人に走られたくなかったであろう若気の至り…の、数々。
そのときばかりはいつも冷静な彼が大いに慌て、心底不服そうに少女を母と認めた。
うん、あの顔は降谷さんに見せてあげたかった。
さぞ溜飲が下がっただろう。
多少の騒動はあったが、彼女の要望通りに改良した解毒薬が効いた彼女は大人に戻り、御礼とともに私の保護者に名乗り出てくれた。
未成年ではいろいろと行動が制限されるため、私は彼女の申し出に感謝して受け入れた。
こうして赤井家との付き合いも始まる。
そしてメアリーさんと共に何度目かのランチを楽しんだとき、彼女から養女の申し出があった。
その日は赤井さんも同席していて、彼にしては珍しく唖然とした顔をしていた。
「この話は秀一次第だ。今日のところはここまで、食事の続きをしよう」
彼女が「ここまで」といったらこれ以上この件で語ることはない。
それが分かっていたから、そこからは母とメアリーさんの思い出話を愉しんだ。
赤井さんもその件について食事中一切触れなかったが気にはなっていたのだろう、マンションに帰ると直ぐに私に養女の件は反対だと述べた。
犯罪者である私が<従兄妹>か<兄妹>かでは意味がまるで違うのだから、と納得した私は赤井さんの言葉にうなずいた。
メアリーさんは「秀一次第」と言ったのだから、当の赤井さんが反対しているならばこの話は終わりだと思った。
だから、
「法律上の関係であっても、兄妹の”ケッコン”は何かと面倒だからな」
自分でもどうかと思う。
工藤君の悪影響であのとき「ケッコン」と聞いた私は真っ先に「血痕」と脳内変換してしまった。
そもそも工藤君は『工藤新一』に戻ってからも人使いが荒い。
『相棒』とか言って耳触りのいいセリフを並べているけれど、あの人私を鑑識か何かと勘違いしているようだ。
…話がずれたけれど。
まるで天気のことを語るように「結婚」ネタを持ち出した男は表情ひとつ変えないで、かくいう私も
「まだ”お付き合い”もしていないのに結婚の話?」
なんて返したのだけど。
生憎、他の人たちのように色恋の気配に疎い方ではない。
黒の組織壊滅させる少し前から、赤井さんの視線の変化とその意味に気づいていた。
まあ………結婚を考えてくれるほど想ってくれているとは思わなかったけれど。
「俺もいい年だ、お付き合い=結婚と考えて不思議はないだろう?」
「あら、私は未だ若いもの。お付き合い=お試しでも不思議じゃないんじゃない?」
「生憎と惚れた女は逃がさない主義でね」
「あら、奇遇ね。私もあなたに惚れているの」
いつから?と聞かれたけれど応えていない。
この手の秘密はスパイスにもなるし、正直言って「いつから」なんて明確なものはない。
いつからか、沖矢昴の影に見え隠れするライでも諸星大でもない赤井秀一が好きだった。
文字通り命がけで守ってくれる騎士(ナイト)にまんまと惚れるなんて、意外と自分はお姫様体質だったのだと自覚したときは独りで笑ってしまった。
もちろん姉の恋人だった人に惚れたことを「よりにもよって」と悩んだりもした。
しかし、組織の科学者として何人もの人を殺す手助けをしていた私なのだから、いまさら地獄に行く理由のひとつが増えただけだと思って腹をくくった。
「ほう、それでは恋人から始めるとしようか」
私の言葉にクツクツと笑う赤井さんの言葉はシンプルで誤解しようがない。
まあ、言葉足らずなところもあるが(降谷さんとの長い諍いの原因の1つでもある)、言葉に嘘はない。
組織壊滅後に初めて赤井秀一として顔を合わせた時、赤井さんは謝罪しつつもお姉ちゃんを利用したことに一切の言い訳がなかった。
『明美を捨てて組織を抜けたときの選択と結果に後悔したことはない』
お姉ちゃんを「本当に愛していた」とか「実は愛していなかった」とかの問題ではない。
彼にはやることがあったから<必要なこと>をしていただけだった。
残念だけど私はそれが理解できてしまった。
だけど、私はお姉ちゃんのために質問をした。
『お姉ちゃんを、愛してた?』
私の質問に赤井さんは一切の迷いなく頷いてくれた。
嬉しかった。
お姉ちゃんが赤井さんを愛していたから嬉しかった。
『俺を恨んでいるか?』
怒りや恨みから私がそんなことを聞いたのだと思ったのだろう。
答えは分かっていたから私は首を横に振ったが、面と向かって問われたことで私は”灰原哀”として経験した色々なことを思い出した。
灰原哀になって直ぐのとき、工藤君の推理力を目の当たりにした私はお姉ちゃんを助けてくれなかったとで彼を詰った。
お姉ちゃんの起こした強盗事件の捜査をした彼ならば、お姉ちゃんを助けられる可能性があったから。
「近くにいたのに何で」と思わざるを得なかった。
赤井さんはそのとき傍にいなかった。
スパイとばれたライが消えて直ぐにお姉ちゃんが制裁を受けて死んでしまったなら、私は彼を憎み恨りもしただろう。
でもお姉ちゃんが死んでしまったのはそれから数年後のこと。
ライのせいで私たち姉妹の監視がきつくなった事実はあるが、お姉ちゃんが死んだことにライは関係ないと言っても良い。
それに、もし赤井さんにお姉ちゃんを助けるチャンスがあったなら、赤井さんは命がけでお姉ちゃんを守ったであろうことは想像できる。
救えなかった贖罪から、亡き恋人の妹である私(灰原哀)を命がけで守ってくれたのだから。
結局はひとつの命の責任は一人で背負えるものではないのだ。
姉の死には色々な人が関係していて、私、父、母、赤井さん、そして姉、その他全員が原因となって、大小あれどみんなが姉の死のキッカケとなった。
姉の死に関する人のリストを見れば、死の数年前に姿を消していた赤井さんのウェイトなどとても小さい。
これが灰原哀として工藤君の傍で色々な事件や人を見てきた私の結論だった。
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「結局は工藤君の疫病神っぷりと人使いの荒さに感謝しなきゃいけないということかしら」
クスクス笑っているとカバンの中のスマホが震える…聴こえていたらしい。
私は腕にはめた紅玉のブレスレットに笑いながら一緒についている時計で時間を確認する。
余裕があったので研究室の建物の傍にあるベンチに座り、スマホを開けば予想通り深紅のマスタングのアイコンがトップ画面に鎮座していた。
【妬けるね】
赤井さんの言葉はいつもシンプルで、これは赤井さんの決めたことならひたすら真っ直ぐ進んでいく性格とも言える。
決めたら即行動。
家族も同僚も何もかも気にせず、後ろ髪をひかれようなら、その髪をばっさり切り落して先に進んでいくのが赤井さんだ。
「赤井さんも工藤君が好きなクセに。彼、あなたにFBI本部に遊びに来いと言われて喜んでいたわよ」
【君に関しては別だ。俺は嫉妬深い性質でね】
「知らなかったわ」
【俺も君に惚れて初めて知った】
「そういえば…貴方いつから私のことを?まさか”灰原哀”のときから、とか?もしここでYESなんて言ったら、ロリコン疑惑が貴方の経歴書に残るわよ?」
スマホは沈黙。
今まではポンポンッと返事が返ってきたのに。
スマホの画面を睨みながら「むう」とうなっている赤井さんの姿を想像し、クスクス笑いながら返事を待つ。
【いつかは分からんが、灰原哀の中の”君”が見えた瞬間に惚れた】
「…特技が射撃とハニートラップなだけあるわ。新しい職場では貴方の元カノに何人会うことになるやら」
頬を撫でる風の涼しさに自分の顔が火照っているのを意識せざるを得ない。
赤井さんは以前「俺は彼(降谷さん)ほど口が上手くはない」と言っていたけれど、赤井さんにだってハニトラの素質は十分あると思う。
【元カノはあくまでも”元”さ。今は志保だけさ】
…こういうところなんだけど。
【蘭君たちが言うには俺は”スパダリ”らしい。意味を調べて納得した】
【ついでに高身長と高収入つきの優良物件だぞ】
「あらあら、口数が多くなってる。分が悪いのかしらね」
立て続けに届くメッセージに笑いが込み上げる。
寡黙で無駄嫌い、言葉も文章も常にシンプルな赤井さんがちょっと慌てているのが可笑しかった。
「さて、おしゃべりはお終い。これから教授に離職の旨を伝えないといけないんだから。これでも優秀なの。引き止められていつもより疲れるだろうから、夕飯はポアロで済ませるわ」
チュッとリップ音を立てて紅玉に口づけてベンチから立ち上がる。
「ジェイムズさんは早く本部に来て欲しいと言っていたし。季節が変わる前にワシントンD.C.に引っ越せればいいんだけど」
【俺の家に越してくればいい。部屋数は十分ある。あそこなら本部に行くのも楽だ】
「”それ”も遺品整理されていなければいいけれど、ね」
今度こそスマホは沈黙するであろう。
私はスマホをカバンにしまって研究所に向かうことにした。
「goddamn!」と叫ぶ赤井さんが想像できてしまって、漏れ出る笑いを抑えることはできなかったけれど。
END
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