一枚上手

ダークバッチ

名探偵コナンの二次小説(組織崩壊後のねつ造)です。

「安室透が消えて降谷零がポアロの常連になる」と想像したとき、毛利小五郎がどう反応するかと思って妄想しました。

pixivで読んだ「毛利小五郎が実はダンディーなかっこいいおじ様」という設定が気に入り、私もその設定で作っています。

イメージが崩壊しそうな人は読まないで下さい。

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【このとき】がいつか来ることは分かっていた。

毛利さんはポアロの常連で、同じく常連になりつつある俺が彼と顔合わせるのは時間の問題だった。

「話がある」

真剣な顔つきの毛利さんに頷き返し、残っていたブレンドを飲み干した。

俺は罪のないこの人たちを、俺は自分の都合で巻き込んだ。

【国のため】を公務員でない彼らに強要できるわけもないし、なにより未成年の蘭さんを巻き込んだ点については弁明もできない。

「ごちそう様でした」

いつも明るい梓さんは「はーい」といつも通りの返事を返してくれたが、いつもはレジで勘定をすませる俺が、カウンターに自分の分の飲食代をおくことに首を傾げる。

そんな梓さんに、『何でもない』と自分にも言い聞かせるように俺は微笑みを向ける。

そして俺は先にポアロを出る毛利さんの後に続いて事務所に続く階段を昇った。

【安室透】として何度も通った階段だったけど、【降谷零】になってこの階段を昇ると無機質な雰囲気に襲われる。

そう、俺は歓迎されていない。

日の光が遮られて足元が陰ったとき、前を歩く男の醸し出すオーラが明確になる。

彼はいつから気づいていたのか。

いままで感じたことのない彼の雰囲気に、【江戸川コナン】の付属品としてしか見ていなかった彼の本当の姿が見えた気がした。

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事務所に入ると毛利さんはソファに座り煙草に火をつけ、くいっと顎で彼の前の椅子を示す。

「失礼します」と一言呟いて腰を下ろしながら、緊張している自分に俺は気づいた。

「蘭さんは?」

「クソ坊主のとこに行ってる。蘭がいないときに話をしたかったんだ」

組織壊滅後、【安室透】を消すにあたり毛利探偵事務所に挨拶に来た。

今までは痕跡も残さず姿を消したが、今後を考えて【降谷零】として挨拶に来る必要があった。

何も知らない蘭さんは俺の正体などに驚いたものの、前と変わらない態度でいてくれた。

それは毛利さんも同じだったが、あれは娘の前だからだろう。

「毛利さんは俺が何をしたか気づいていたんですね」

「証拠をでっち上げて俺を逮捕した公安の…風見っていったっけ?それを裏で操っていたクソ野郎ってことだろ」

毛利さんの口からでた直球に構えが甘かった俺は思わず怯み、そんな俺に気づいた毛利さんは煙を深く吸い込み、白くなった灰を落とした。

「元刑事だからな、【必要悪】ってやつもある程度理解はしてる。英理や蘭を泣かせたのは腹も立つが、俺も、公安のエリート様ほどじゃないかもしれんが、罪のない人やその家族を泣かした経験はある…因果、なんだろうよ」

再び煙草を咥える毛利に俺は驚きを表情から隠すことができなかった。

素直な俺の顔を見て毛利さんは小さく笑った。

「ガキどもがあんまり大人を見くびんなよ?」

「ご存知だったんですね」

「途中からだけどな。どうしてああなっちまったかは想像もつかねぇが、あの顔は10年前に嫌というほどよく見てたんだ」

そういって毛利さんは煙草を吹かす。

毛利さんの煙草を吸う仕草に、「あんな風に煙草を吸えたらカッコいいよな」と言っていた警察学校時代のヒロの姿が浮かんだ。

年季の入った、赤井でも足元に及ばないような大人の雰囲気がそこにはあった。

「なぜ黙っていたんですか?」

「あれが新一だけの話なら受け入れなかった。だが『コナンの母親』って有希ちゃんがきたとき、大事な幼馴染のお願いは聞かなきゃいけねえって思ったのよ。ガキになるなんて、実にファンタジーな薬だな」

毛利さんはクツクツ笑う。この瞬間にこの人は毛利さんの懐の広さ感じさせられた。

彼は足りない情報は推測で補足しながら、毎回一人で最善の道を選択していたのだ。

「アイツは有希ちゃんの大事な息子だし、蘭が泣くのは嫌だからな。手助けが必要って感じでもねえし、実際どうしていいかもわからなかったから、好きにさせておいた」

ふぅ、と毛利さんは煙草の煙を吹き出す。

上空で漂う白い煙が空気にまかれて霧散されているのを俺はなんとはなしに見ていた。

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「お前さん、下の名前はなんだ?」

「零、降谷零です。この名前が本当だと証明することはできませんが」

公正証書なんていくらでも偽造できる。

そんな自分をどうしたら信じてもらえるのかと一瞬の悩みを感じ取ったらしい毛利さんは楽しそうに噴出して

「やっぱり未だガキだな。お前さん、梓ちゃんにそう名乗ったんだろ?」

「ええ、まあ」

「それならホンモノだろうよ。まあ、惚れた女を組み敷いたときに別の男の名前を呼ばれても構わないって奴ならニセモノかもしれんがね」

毛利さんの明け透けな表現に、思わず梓さんの薄い桃色の唇が他の男の名前を紡ぐ場面が浮かんで脳がカッと沸騰する。

慌てて冷静になろうと思っても後の祭りで、目の前の毛利さんは楽しそうに体を折るようにして笑っていた。

「実は沸点の低い奴だったんだな。まあ【安室透】もよく生キズをこしらえてたもんな」

「…真逆なタイプの方がぼろが出にくいんですよ」

「偽装も【工藤邸の居候】の方が一歩上か」

「…赤井のことも知って?」

「うんにゃ、知らん。ただコナンがあれだけ懐いてたら何かあると思って当然だろ? だから、お前たちは爪が甘いってんだよ」

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クックックッと楽しそうに笑った毛利さんは立ち上がり、事務所の脇にある簡易キッチンに向かうと1分ほどで戻ってきた。

その手にはスコッチの瓶と氷の入った2つのグラスがあった。

「飲めるか?」

「まあ…人並みには。でも、なぜ?」

「礼だ」

毛利さんは煙草の灰を落としてまた口にくわえて、慣れた仕草で未開封の栓を回す。

「コナンはあの小さな体で俺たちのことを何度も助けてくれた。しかしどれだけ頭が良くても、行動力があっても、アイツはまだガキだ。限界があったことだって分かる。それをお前さんたちがフォローしていたんだろう」

予想外の展開に驚く俺の耳にキュポッとコルク栓のあく音が届き、やがてスコッチウイスキーの芳香が鼻先を擽る。

陽の光を反射させながら琥珀色の液体がグラスに注がれ、一歩遅れてグラスの中の氷がカランッと音を立てて踊った。

「そのツラ。 殴られる覚悟でもしてたのか?」

「はい……まさかの展開で脳が追い付いていません」

「ハハッ、頭がいいのも大変だな。物事は複雑なようで、実は単純なんだぜ?  お前が俺に嫌われたくないって思っているようにな」

!!

「俺は1週間のうちかなりの時間ポアロにいるが、梓ちゃんの言う新しい常連の降谷さんに会ったことがない。微妙に入れ違いされたらよ、「ああ、避けられてんなぁ」って思うだろ」

毛利さんの言葉にぐうの音もでなかった。

「だからマスターにお願いして、お前さんが来たらワン切りして報せてもらうことにしたんだ。あの人も薄々事情は分かっているしな。快く協力してくれた。全く…怒られたくなくて逃げるなんてガキか、お前は」

容赦なくガキ扱いする毛利さんに初恋のエレーナ先生がダブる。

あの女性(ひと)はこんなに口が悪くなかったけれど心に響く叱り方をしてくれた。

「俺、あなたのことが好きなようです」

「そうそう、ガキは素直が一番だぜ?」

ニヤッと笑うと毛利さんはスコッチの入ったグラスを傾け、しばらくすると美味しそうに目を細めた。

蘭さんたちの前で見せるのとは違う。

あんな酔っ払い親父の片鱗もない大人な飲み方。

「ごちそうになります」

「いい酒なんだ。2杯目からはツマミと交換だぜ? あのハムサンドなんて丁度いいな」

毛利さんは笑うと煙草を灰皿に押し付けて消し、それを合図に俺は毛利さんの持つグラスに自分のグラスをぶつけた。

いささか強くあててしまったのは、ガキゆえということにして欲しい。

END

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