新人の唇 / 名探偵コナン

ダークバッチ

名探偵コナンの二次小説で、赤井秀一×宮野志保(もと灰原哀)です。

ダークバッチの恋(シリーズ)の2作、「天才科学者のスパダリ」と「蜂蜜漬けの狙撃手」の続きで、FBIにスカウトされた志保(灰原哀)は帰国する赤井と一緒に渡米した直後の設定です。

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「ヘイ、シュウ!ちょっと気晴らしに行かないか?」

同僚の言葉に赤井秀一は顔を上げた。

思わずその顔を見て同僚が一歩退いてしまうほど、咥え煙草をしてパソコンと格闘していた赤井の顔は凄惨だった。

「気晴らし?食堂のマリアのところか?」

ボン・キュッ・ボンの美人と名高いマリア。

独身のFBI捜査官たちを魅了している食堂の職員の名前を出すと、同僚はチッチッチッと顔の前で指を振った。

「情報が古いぜ。いまは鑑識の彼女さ」

「…ほう」

「アジア系だからシュウを連れて行った方が勝算ありと思ってさ。 そうじゃなきゃお前と一緒にはいかないよ」

FBI一の切れ者で凄腕のスナイパーはFBIの女性職員に絶大な人気を誇る美丈夫。

敵を騙すために死んだと見せかけただけだったが、本部にろくに報告せずの偽装工作。

赤井の殉職(偽)」の報せを受けたFBIの女性職員の多くが涙し、俺の私物は捜査員たちに形見分けをさえた。

もちろん、所在がわかる遺品は生きて戻って回収した。

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「彼女を見たことがあるのか?」

「お前が事務局に呼ばれていたときに挨拶に来たんだよ」

「ほう」

「ジェイムズがスカウトしてきた逸材ってだけでもすごいのに、本人が超美人。年の割にどこか影があってな、それがまたセクシーなんだ」

「でひ彼女を食事に誘いたい」とホクホク顔の同僚に、赤井はふうっと煙草の煙を吹きかけて煙草をもみ消す。

少し離れたデスクのキャメルは、赤井たちの会話が漏れ聞こえたらしく、どうすべきか悩んでいる。

そんなキャメルに俺は人差し指をたてて口止めし、軽くウインクおくると赤井は同僚の肩を1つ叩いて席を立った。

「どっちが先に彼女とキスできるか賭けないか?」

「お! シュウがそんなこと言うの初めてじゃないか?」

「そうかな?」

「例の件が解決して相当嬉しいんだな。のったよ、アジア系の彼女なら黒髪のシュウよりブロンドの俺に分がある」

「俺、マット・〇イモン似だし」という彼は窓ガラスに姿を映して髪の毛を整える。

ブロンドの髪が高くなるつつある陽の光を受けて明るく輝く。

「俺の誘いを受けてくれたら、”遺品回収”されたお前の皮ジャンくれよ?」

「それじゃあ俺が勝ったら溜まっている書類を代わりに書いてくれ」

「書類嫌いは死んでも治らなかったようだな」

「生き返るのがこんなに大変とは思わなかったよ…部屋も解約、車も売却…手際よすぎだろう」

「でもいい部屋が見つかったんだろ?お前にしちゃセキュリティの高いとこだって事務局のカーリーが言ってた」

「気に入ったもんでね」

「ライフルと車以外は特にこだわりのない無頓着なシュウが珍しいな」

同僚の言葉に赤井は何も言わなかった。

鑑識についたどの同僚が、赤井をおいてさっさと中に入ってしまったからだった。

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「さーて、俺の天使はいるかなぁ」

同僚がガラスに顔をくっつけて目を忙しなく動かして探す。

生憎と生き返ったばかりの赤井には未だ何の事件も割り振られていないが、室内が慌ただしいのは何か大きな事件が起きたからかもしれない。

「この状況じゃ相手にされないだろう。出直さないか?」

「そういって他の奴らは遠慮してるんだ♪ 先手を打つチャンスだぞ?」

「…そうとう気に入ったんだな」

テコでも動く風情のない同僚。

赤井はふうっとため息をつき、時計を確認し今日が期限の書類の山ひとつを思い出してため息をついた。

「シュウ!? 生き返ったというのは本当だったんだな」

事件で面識のある鑑識官の1人が赤井を見つけて声をあげ、それを合図にしたようにいくつもの瞳が赤井の方を向く。

その瞳たちは死んだと聞いていたシュウがやっぱり生きていた事実に喜びつつも、赤井のこき使いっぷりを覚えているため「いまは仕事は受け付けられない!」と叫んでいた。

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「こいつが鑑識のニューフェイスにご執心でね」

「ああ、例の彼女か。彼女なら……ん?どこいったかな」

「アジア系は小柄だからなぁ」なんてぼやきながら彼は背伸びして”彼女”を探し、見つけると「Shiho!」と大きな声を出して存在を主張するように大きく手を振った。

「なに、アダム? 例の解析ならもうすぐ終わる…あら?」

白衣を翻してやってきた志保の姿に顔を輝かせて近づこうとした同僚の肩をやや強い力で引いた赤井はそのまま驚く同僚の前に立ち

「Hey, my honey」

赤井は志保の顎に指をかけて適当な角度に上向かせ、 志保の桃色の唇が動く前に自分の唇で軽く動きを制する。

まさか職場でこんなことされると思わなかった志保は戸惑ったがそれも一瞬。

開いたままの瞳に、赤井の肩越しに赤井と同じジャケットを着たガタイの良い捜査官の姿を認めて全てを理解した。

…チュッ

ハグやキスが挨拶のこの国でも、挨拶じゃないと分かるキスシーンにシンッと鎮まった鑑識。

リップ音を響かせながら唇を離した赤井は、志保の桃色のルージュがうつった唇の端をニヤリと歪め、志保はため息を吐いて赤井の唇から自分のルージュをぬぐう。

「あなたも大概よね」

「これが一番手っ取り早いと思ったんでね。 悪いな」

まったく悪びれた様子もなく放心した同僚の肩をポンッと叩くと、志保の肩に腕を回して「あっちよ」と自分のブースを指さす志保の案内を受けながら部屋の中を進んでいく。

「忙しそうだな?」

「これで<いつもよりチョットだけ>だそうよ。先が思いやられるわ」

赤井の言葉に志保は肩をすくめて書類の束を振る。

後悔しているのかと赤井は思ったが、志保の目は好奇心や探究心をくすぐられて楽しんでいるようだった。

「いつ帰宅できるか分からんな。夕飯は何かテイクアウトを届けよう」

「あら、そんな時間ができたなんて例の書類は片付いたの?」

「勝てない勝負はしない主義でね」

「全く…本当に悪い男(ひと)」

志保はデスクの上の適当な紙の端をちぎり、すらすらとペンを流れるように動かして何かを書付けて赤井に渡す。

「これは?」

「私の荷物を預けている場所。あなたの荷物と一緒に新居に運んでおいて頂戴」

「了解。クローゼットの半分を開けておくよ」

「70%は私の領域よ」

むう、と黙り込む赤井に志保はクスリと笑って、赤井の頬に軽く口づけると手に持っていた書類を振りながらブースを出ていった。

END

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