「スキップ・ビート!」の二次小説です(旧サイトにアップしていた作品を移転しました)。
蓮とキョーコは恋人同士の設定です。
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ー 当機は間もなく羽田空港に到着致します ー
機内放送を聴いたキョーコは本から顔を上げ、右手でシェードを開けて外を見る。
そこには星を散りばめたような東京の夜景があった。
ー 現地、東京の時刻は19:00 ー
仕事でずっとアメリカにいたキョーコは腕につけていたアンティーク調の時計の針を回して19時に合わせた。
ー 天候は晴れ ー
晴れた夜空、地上と同じく空には輝く星があった。
東京上空でなければもっときれいに見えただろう、とキョーコが京都をふと懐かしく思っていると、
ー 今夜は七夕、綺麗な月夜に天の二人も満足していることでしょう ー
空にぽっかり浮かぶのは上弦一歩手前の月。
(織姫と彦星の一年ぶりの再会か)
織姫と彦星のロマンスはキョーコの好きな話なので、今夜晴れたことが嬉しかった。
天空で逢瀬を楽しむ恋人たちを想いながら、電波をOFFにしている携帯電話を取り出して、メールアプリを起動すれば一番上のメールの差出人は『敦賀蓮』。
『 気を付けて帰ってくるんだよ 』
朝、ホテルを出るとき受け取ったメールは心配性な蓮らしい気遣いの言葉。
お互い仕事でアチコチ旅をしているけれど、キョーコが「出かけるとき」と「帰ってくるとき」は必ずメールが届いた。
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「ふふ」
キョーコは帰るときに届くメッセージの方が好きだった。
帰るところがあるというのが嬉しかった。
今回は撮影で1ヶ月にわたる海外生活、恋人の蓮は「仕事だからね」と普通に不在を受け入れていたが、心配はしているのか連日にわたって注意事項を切々と述べられた。
終いには「自分も行く」という始末で、最初の”仕事だから”が男の矜持によるものだと気づいて笑ってしまった。
もちろん担当マネージャーの社が蓮を必死に止めたけど、キョーコは蓮の心配が嬉しかった。
メールのメッセージはまだ続いていて
『 待っているから。 蓮 with LOVE 』
自分を心配してくれて、自分を待ってくれていて、「好きだよ」と言ってくれるかけがえのない人。
仕事が常に分刻みで忙しい蓮が忘れずに送ってくれるメッセージ、たった二行のメッセージでも十分だった。
ポンッ
点灯したのはシートベルトの着用を報せるランプ。
着陸までのカウントダウン。
暫くすると飛行機は大きな音を立てて降下し始めて、帰ってきたことを実感するキョーコに応えるように機体から伸びた車輪がアスファルトの地面に着いた。
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「んー…すごい湿気」
ジメジメしていつもは不快な湿気も、『日本』を実感させる空気だからキョーコには嬉しかった。
Pirurururu Pirururururu
到着ゲートを潜った頃、電波をONにした携帯電話にメッセージアプリの通知音が何度も鳴る。
人の波から外れて脇により、メールを開けばマネージャーを筆頭にメッセージの数々。
「無事に付きました。気を付けて帰って来てください、と」
キョーコのマネージャーの帰国は明日の予定で、「残りは後片付けだけだから」と言って彼女はキョーコを一足先に帰国させてくれたのだった。
もちろん「敦賀君に早く会いたいもんね~♡」と揶揄うことは忘れずに。
「え?」
とりあえず急ぎのメッセージを送って、残りは家でゆっくり返事をしようと考えたキョーコの手が止まる。
たった今届いた蓮からのメッセージ。
【至急】の文字に嫌な予感がして文字を辿っていけば、
『 映画の撮り直しで急遽ロスに行くことになった。 』
キョーコのぼんやりとした目が文字を追えば、メッセージが続いて届く。
『 今夜18時の便 』
時計をみるともうすぐ20時
『 待っているって約束を破ってごめん。 蓮』
”with LOVE”の締めも省くほど忙しいのか。
「逢えない…んだ」
ぼんやりとしたキョーコの目についたのは空港ロビーの隅にある洒落たカフェ。
愛猫は明日までペットホテルに預けてあるし、蓮はロスに行く。
キョーコを待っているのは暗い部屋だけだと思うと足取りも重くなるから、
「カフェオレでも飲もう」
帰りたくなくて、キョーコはカフェに入った。
注文をすれば直ぐにカップが差し出され、ミルクと珈琲の甘い香りを嗅ぎながらキョーコはぼんやりと慌ただしく人が行き来する空港を見ていた。
平日の夜ということもあり、会社員と思わしきスーツを着ている人が多かった。
そんな中で白いワンピース姿のキョーコは目立ったが、念入りの変装のお陰か『京子』とはばれなかった。
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「今夜はどうしようかな」
ポツリと呟いた言葉にキョーコは自嘲的に嗤った。
「別に珍しいことじゃないのにね」
蓮もキョーコも仕事が忙しく、ロケで外泊するなんて当たり前で、ペットにも常宿があるほど。
蓮にいたっては俳優業に加えてモデルもやっているから、キョーコ以上に忙しく世界中を飛び回っている。
一人で部屋にいるなんてよくあること、珍しいことではないし、一か月以上会えないことだってあるのだ。
「…やだなぁ」
空のカップをカウンターに返して、手持無沙汰になって、帰らない理由がなくなって、ぽつりと零したキョーコの視界に水の膜が張る。
仕事だから忙しい、寂しいなんて我侭言っちゃダメ、脳が分っていても心が理解しない。
頭じゃ制御なんて出来ない、なんて恋心とは厄介なのか。
寂しい、寂しいと心が流した涙がやがて溢れて零れだす。
「逢いたいよ」
滅多に零さないキョーコの弱音という本音。
我慢しなきゃ。
「どんなに短くても良い。逢いたい」
我慢しなきゃ。
「私、バカみたい。短くてもなんて」
ぐすりと鼻を啜る
「敦賀さんはもう日本にさえいないのに……っえ?」
不意に体に他人の腕が回って、警戒するより先に慣れたニオイと温もりが腕の主をキョーコの心に伝え、あげかけた悲鳴が喉の奥にそっと戻った。
首を回せば、そこにはサングラスをかけた蓮がいた。
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「…どうして」
「1本遅い便にしたんだ。30分だけだけど、ここでキョーコに会えるかもって」
耳に響く心地よいテノールの声、キョーコの体に回った腕に力が籠る。
「30分の逢瀬のためにここにいる俺は馬鹿かな。だけど、」
蓮の手が伸びてきて、ついっと指がキョーコの目に残る涙を拭う。
「君の涙が止められれば、その価値があったね」
「敦賀さん」
キョーコはしゃっくり混じりの声で蓮の名を呼び、ぐしゃぐしゃな泣き顔で笑うキョーコに苦笑した蓮は腕の中のキョーコに正面を向かせて、その背をポンポンと優しく叩く。
「お帰り」
「…ただいま」
「俺のところに帰って来てくれてありがとう」
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「30分でできることと言えば珈琲を飲むくらいだな」
どうぞ、と蓮が珈琲とカフェオレが入った2つのカップを前に並べる。
瞬く間に二杯目の注文をしたキョーコに店員は些か驚いた顔をしていたが、キョーコは知らん顔で注文を押し通した。
「ごめんね。何か返って慌ただしいね」
無遅刻大王の蓮がチラチラ時計をみていることにキョーコが気付くと、蓮は自嘲するように笑った。
「謝らないで。 あの、どんなに短くても逢えて嬉しいから」
「そうか…ありがとう」
「ありがとう、は私の台詞です」
涙の痕は未だあるものの、明るく笑うキョーコに安堵しながら蓮は顔を綻ばせる。
お互いの仕事の話をしていると、30分間という時間はあっという間に過ぎてしまい
「それじゃあ、俺は行くね」
「はい。いってらっしゃい」
蓮がそう言って送り出してくれたように、キョーコも笑顔を添えて同じ言葉で蓮を見送る。
「一人なんだから気を付けて帰るんだよ」
「はい」
一人で帰国というと口酸っぱく注意事項を綴った蓮、終いには「社を呼ぶ」とまで言いだし流石に止めた。
蓮の心遣いは嬉しいけれど、何かと苦労性の社が気の毒で、
「大袈裟じゃないよ。君に何かあったら俺は正気じゃいられない」
真剣な声
真剣な瞳
甘い殺し文句にキョーコの頬が紅くなる。
(この人は…本当に無自覚天然女たらしだ///)
「家に着いたら絶対に連絡して。何かあったら社長か社さんに連絡するように」
「はい」
こくんこくんと素直に首を縦に振るキョーコに満足して蓮はキョーコの頭を優しく撫でた。
「それじゃあ」
「あっ、敦賀さん」
呼び止めたものの羞恥の方が先に来てしまい、キョーコは俯いてポツリと言葉を零すのが精一杯。
「好き/// 大好き///」
突然の、それもキョーコからの愛の言葉に蓮は目を見開いて驚き、次第にその顔はとても嬉しそうな笑顔に変わった。
「俺も好きだよ」
蓮は俯いたキョーコのつむじに口付けて、黒い髪に唇をうずめて囁く。
「やっぱりメールでwith LOVEって言うのとは違うね」
「/// はい、恥ずかしいですけど///」
メールで何度も何度も伝えてきた
with LOVE
「これからはメールじゃなくて///ちゃんと言葉で言えるようになります」
100万回のwith LOVEじゃなくて、直接口で、この声で、100万回の「好きだ」を伝えたい。
私を大切にしてくれる、私を好きだと言ってくれる、世界で一番大事なあなたに。
「ありがとう。 今度こそ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
END
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