嫉妬

シティーハンター

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『だから行かない方がいいって忠告したのに』

電話の向こうから聴こえてくる絵梨子の笑い声に、一次会で帰路についた香はスマホを耳にあてながら夜道を歩いていた。

『女の集まりなんてロクなものじゃないわよ。早く帰って穢れを払いなさい』

絵梨子によると女性は常に自分を周りと比較して、相手が自分より下だ判断して安心する生き物。

女子高の同窓会は『伏魔殿』らしい。

“ 毎月赤字ギリギリだし ”

“ 結婚はきっとしないかな ”

そう香が応えるたびに優越感を感じていた元クラスメイトたちの表情を思い出し、香は適当に絵梨子との会話を切り上げると行先を冴羽マンションと反対方向に決めた。

「あら、冴羽さん。今日はひとりなの?」

「香は同窓会だと」

「あら~、もしかして昔の恋人といい雰囲気になってたりして」

「残念。あいつは女子高出身だよ。美樹ちゃん、ドラマの見過ぎでない?」

店が暇だから昼ドラにはまるしかないのよ、と笑う美樹に獠は苦笑して客の少ない店内を見る。

いつも隣に座る香がいないせいか、獠の耳は他の客の会話をなんとなく拾っていたら

「私と別れてあの子を選ぶってわけ?」

(狼狽えんなら最初っから浮気なんてしなきゃいいのに)

前の席に座る女性に責められて怯んでいる男を値踏みする。

しばらくすると女が席を立ち、男はテーブルに料金以上の金額を置くと慌てて追いかけて行った。

「男は常に刺激を求める傾向があるからなぁ~」

「あら、冴羽さんは浮気を赦せちゃう人? 

自分は赦さないくせに赦して欲しいのは男のわがままよ、と言いたそうな表情をする美樹。

そんな視線から逃げるため、獠はジャケットの内側から煙草を出して火をつけて

「俺は十分刺激が足りてるから」

「確かに。 香さんってビックリ箱みたいよね」

型破りなのは裏稼業の相棒としてだけではない。

女としても規格外で、冴子のように分かりやすく色気を振りまくのではないが、その健康的で優しげな艶は美しいと形容できる容姿と相まって多くの男を引き寄せる。

それも無自覚で。

鈍感な香の行動にやきもき、命がけの裏稼業にどきどき、獠の中に「香に飽きる」という想像すらない。

「あら、ごちそう様」

「あん?」

「香さんを想う冴羽さんってすごく幸せそう。今日の香さんは大変ね」
「なぜ?」

「幸せだから。女は他の女の幸せを妬む生き物なのよ。私は十分幸せだから香さんを妬んだりしないけどね」

そう言って隣で黙々と片付けをしていた海坊主の腕に自分の腕を絡める。

ぶしゅうっと真っ赤になった海坊主に呆れて次の煙草に獠が火をつけようとしたとき

「獠ちゃん!」

喫茶店の扉が開き、情報屋の一人が入ってきた。

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