スキップ・ビート!の二次小説です。
原作無視の100%妄想で、次のような設定になっています。
・蓮とキョーコは両片思い
・キョーコは蓮と同じマンションの違う階に住んでいる(ローリィの意向)
・社×奏江要素あり
恋する万葉集から、イメージは「思へどもなほぞあやしき逢ふことの なかりし昔いかでへつらむ 」。万葉集にのっている村上天皇の歌です。
意味は「貴方を恋しく思っていると、貴方に逢う前はどんな気持ちで過ごしていたか不思議に思われる」というものです。
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「雨…降らないかな」
静かな部室でやけに大きく響いたキョーコの声、というより台詞に奏江は驚き台本から顔を上げる。
「あんた、梅雨は始まったばかりよ?これから嫌ってほど雨の日があるのよ?」
「モー子さんは雨嫌い?」
キョーコの問いに奏江は自慢の黒髪を摘む。
湿気の所為でセットが上手くいかなかった所を睨み、「梅雨なんて大嫌い」と髪をピンッと弾いた奏江にキョーコは笑う。
美人はしかめっ面も絵になる、と思いながらキョーコは窓の外を見る。
そして別の美人を思い浮かべながら、「だよね」と小さく呟いた。
その呟きが悲しそうなら奏江としては困ったが、キョーコは面白がる様だったし、
(無粋なことは趣味じゃないわ)
キョーコの頬を染めるただ一人美形の男が浮かんだ脳を数度振り、今日撮影の或るドラマの台本に集中することにしたが
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(…そういえば同じスタジオだったわね)
歓声を上げて脇をすり抜けた女性陣の向かう先。
黄色い声が飛び交う中で奏江はその男を見かけた。
周囲の人垣から頭一つ以上抜き出ていて、彫刻の様にバランスの良い長身。
神様が贔屓したとしか思えないほど怖いくらい整った顔に浮かぶ穏やかな笑顔。
(相変わらずねえ、敦賀さんも)
蓮の周囲で熱気を振りまく女性陣に呆れつつ、水蒸気ムンムンの中で愛想振りまく蓮に感心しつつ、大変ねぇと100%他人事だから我関せずで現場に向かおうとしたら…蓮と目が合った。
(…げっ)
蓮が嬉しそうに奏江に向けてニコッと笑う。
目敏い女性陣は蓮の視線を追い、視線の先にいる奏江を睨む。
「違う!」と声を大にして訴えたいのを我慢して頭を下げて
「お久しぶりです、最近事務所で全然お会いしませんね」
ただの事務所の後輩であることを声高にアピールする。
しかしこの男、目の前の男は奏江と話をしているようで全く視線が合っていない。
奏江を見ることなく、奏江の隣や背後をキョロキョロと探っていた。
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「本当にごめんね、琴南さん」
うちの蓮が、と詫びの品を持って奏江のところに来たのは社だった。
「社さんの所為じゃありませんから、全くもって、はい」
軽く八つ当たりをすると、和解の証にペットボトルを受け取った。
ホッとした社も隣で缶コーヒーを開け、並んで一服を楽しむ。
((コレも恒例になったなぁ))
並んで飲み物を口にするこの状況。
他人に関係を問われたら答えに窮してしまうのにどこか心地いい。
2人で密かに命名した『被害者の会』。
「「お互いに苦労するね / 苦労しますね」」
両片思いな二人に振り回されてるお互いを労う。
その実、それは振りで2人とも心のどこかで楽しんでいる。
いつだったかそれに気づいたのは、コンビニの奥にある飲み物の入った冷蔵庫の前だった。
そのとき社は、自分が全く興味がないダイエット茶のペットボトルを目に留めた。
奏江は絶対に飲まないと誓ってさえいる缶コーヒーに目が行った。
” 気のせい、気のせい ”
社は見なかったことにして隣の扉を開けて缶コーヒーを選び出し、奏江も見なかったことにして隣の扉を開けてダイエット茶のボトルを取った。
((そう、あれは気のせい。気のせい))
いま自分の手の中にある飲み物を見ながら内心で呟いて「そう言えば蓮のやつって意外にも雨の日が好きらしいんだ」とタイミングを計ったように雑談に興じた。
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「雨、ですね」
傍の道路を転がる車のタイヤの音が変わったことに気づいたキョーコは女将さんとの会話を中断し窓の外を見て呟いた。
「本当だ、未だ降り始めみたいだけど。良く気づいたね」
雨を心待ちにしていた自分を指摘された様で、キョーコは女将さんに気づかれない程度に頬を染めた。
「ごちそう様、また来ます」「いつでもおいで」
次の歓迎を約束する温かい言葉にキョーコは笑顔で頷いて、持っていた傘をポンッと開いて宵の口の空の下に踏み出す。
パタパタと雨を遮る傘は人の視界も覆ってくれて、誰も『京子』だと気づかない自由な人混みをキョーコは満喫していた。
ピッ
入場を許可する音と同時に上がるゲート。
かざしたマンションのキーを財布にしまいながら認証システムに表示された時刻に、久しぶりに深夜まで延びなかった仕事に蓮は微笑んだ。
サイドミラー越しに涙を流す宵の空を見ながら車を発進させ、蓮の契約している地下駐車場の一番奥にある駐車スペースに向かう。
最後にワイパーを動かして雨の名残を拭い去るとエンジンを停めた。
仕事の時間も好きなのだけど、逢いたい人との時間も欲しい。
「我儘だな」と静かになった車内で蓮は笑うと携帯電話を取り出すと電話をかけた。
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バッグから聞こえた着信音に慌てて携帯電話を取り出すと、液晶で光る文字に驚いて思わず雨の空を見上げた。
「も…しもし?」
『俺だけど。 未だ電話に不慣れなのかい?』
からかう様な蓮の声にキョーコの耳と胸が擽られた。
『お疲れ様です』
後輩の正しい挨拶に少しだけ物足りなさを感じながら、キョーコの声の奥から聞こえる車の音に眉を潜める。
入場ゲートの時刻を思い出して開きかけた口を閉じる。
過剰な心配は相手にとって窮屈になるし、だるまやの大将が夜道の危険性をキョーコに言って聞かせたことを知っている。
父親のような彼の忠告を無視するキョーコじゃないと蓮は知っている。
「もしかして、外にいる?」
『大丈夫です。今だるまやからの帰りなんですよ』
屈託のないキョーコの声に、誰かといるのか探ろうとした己を恥じた蓮は自嘲的に笑った。
『気を付けて帰っておいでね、雨が降っているから』
まるで兄の様な言葉キョーコは少しだけ物足りなさを感じながらも、妹みたいなものだから可愛がられているのだと胸に刻む。蓮はかつて演じたカインの様に、妹・セツカを演じたキョーコを可愛がる。
役が抜けてないのかな、って思うときもあったが蓮はカインの様に世界に対し排他的でないし妹が全てでも無い。仕事場や事務所で見かける蓮はいつも綺麗または可愛い女性に囲まれ談笑している。
「敦賀さんはまだお仕事ですか?」
『いや、いやマンションの駐車場』
久しぶりのオフを悦ぶ蓮の声に、誰かといるのか探ろうとした己を恥じたキョーコは自嘲的に笑った。
『もうご飯は食べましたか?いや、食べているわけありませんね』
ひどいな、と言いながら蓮は天から下りてきた蜘蛛の糸のようにそれを掴む。どんな細い糸でもこれはキョーコの元へと繋がっている道だから。
『御明察の通り、未だなんだ。作ってくれるのかい?』
しかたありませんね、と言いながらキョーコは天から下りてきた蜘蛛の糸のようにそれを掴む。どんな細い糸でもそれは蓮の元へと繋がっている道だから。
(( 情けない ))
雨が降ると屋外の撮影は延期になり、オフってことが時々ある。だから雨が降るたび相手の仕事がオフになることを期待して、掛かってくるかもしれない電話を待って、チャンスが落ちてきたら必死でつかむ。なんとも無様な自分に呆れてしまうが
((でも、良いか))
自嘲的な反省じみた思いも、会った瞬間に霧散する。
「お帰り、キョーコちゃん」
「敦賀さんも、お帰りなさい」
相手の唇が紡いでくれる優しい「おかえりなさい」を聞けばいつでも天国。我が家って感じと思いながら、ホールで出迎えた蓮は折角だからと隣接したスーパーにキョーコを誘う。
「スーパーで食材と料理に合う酒買って帰らない?」
「私はもちろん夕食を食べたのでお酒だけ付き合います」
決まり、と二人並んでスーパーに向かう。キョーコが今夜のおかずと摘みを提案すれば、酒くらいはと蓮がお酒を選ぶ。キョーコが食材を蓮がお酒を一つの籠に入れていく。
「もし良ければ作り溜めしておきましょうか?」
「助かるよ。しばらく撮影三昧、明日の雑誌の撮影なんて海でだよ」
「私も明日夏物の撮影です。ようやく季節の先取りに慣れてきました」
ふたりで和気あいあいと雑談しながら、蓮が会計を済ませ、キョーコが袋に詰めて、重くなった袋を蓮が持っていく。そして「行こうか」と蓮がエスコートしてホールに向かう。
「それじゃあお互いに明日晴れると良いね」
「雨じゃまた延期になっちゃいますからね」
チンッ
到着したエレベータに同時に乗り込みながら
((でも明日も雨ならこうして一緒に… ))
閉まる扉を見るふりをして2人は同時に伺うような眼を相手に向けた。
END
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