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「貴方はよほど強運の持ち主のようだ」
化粧直しといって香が席を外すと、カウンターの中でずっと黙っていたマスターが口を開いた。
「いい店を見つけられた」と獠が言えば、聡いマスターは小さく笑って他の客の接客に向かった。
「ただいま」
戻ってきた香が隣のスツールに再び座る。
自分の居場所は此処だと言うような香の姿に、確かに自分は運がいいと獠は再認識する。
香は容姿(そと)も性格(なか)も最上級の逸品で、そんな香が隣で笑ってくれるのは自分のこれまでの不幸を補って釣りがくるほどの幸運だと獠は思っていた。
日頃の行いが良いことはないことを思えば、信じていない神に感謝してもいい気にさえなっていた。
しかも香は超がつく鈍さだ。
獠はよほど神は機嫌の良い日に香を作ったと思っていた。
獠の教育の賜物でもあるが、香は他の男の好意に全く気づかない。
他の男のことを気にすら留めず、よってよそ見もあり得ない。
そんな奇特で奇跡のような女。
「あと一杯飲んだら…帰る?」
分かっていて計算でやっているわけがないが、獠は香の無邪気に誘いに微笑む。
本人は何も意識していないだろうが、首を傾げる仕草や声に少しだけ混じっている艶や甘さ。
獠が提案にのれば嬉しそうに、照れくさそうに香は笑う。
いつも通りにプラスされた女の艶と婀娜っぽさに心が跳ねる。
無意識だと解っていても獠の中の男が反応する。
体の素直さに思わず笑えば、何も気づいていない鈍感な香は首をかしげる。
本当に面白い女だと僚は内心で笑う。
まさに誰も知らない花。
香はその瞳に獠を映すときだけ、女として開花する。
だからその美しさも、匂いたつ様な艶も、獠しか知らない。
香すらそれを知らない。
獠以外は存在さえ知らない美しい花。
香は獠のファムファタル、獠だけが知るシークレット・レディ
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