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「っと………濡れたな」
地下鉄を降りたら雨が降っていて、アパルトマンまで走ったものの、入口まであと少しと言うところで脇を抜けた車に水をひっかけられた。
「すぐ戻るつもりだったが、着替えないとダメだな」
泥色に染まった愛用の白いシャツに溜め息を吐いた千秋が玄関の扉を開けると明るい室内。
「のだめか?」
唯一可能性のある人の名前を呼びながら、リビングに足を踏み入れた千秋は苦笑した。
「勝手に飲んだな」
まだ半分以上残るワインに栓をして冷蔵庫に戻し、「激ヨワ」なんて憎まれ口を叩きながらのだめの細くて長い指かあワイングラスから外す。
そして次いでとばかりに、火照った頬を優しく撫でた。
シャワーを浴びて新しいシャツに腕を通し、黒い髪を柔らかいタオルで拭きながら、お日様の香りがしない乾燥機仕上げを内心嘆きながらリビングに戻る。
「何だ、まだ寝てるのか」
あの程度の酒量でよくこうも寝れると感心しながら
「…寂しかったか?」
少し赤い目尻に気づいて愛しさのまま言葉を紡ぐ。
勢いのまま、のだめの顔に唇を寄せると、僅かに開いた口から洩れる規則正しい寝息が千秋の耳を擽った。
「俺も酔いそうだな」
ワインの香りが混じった甘い吐息誘われて、千秋はのだめの桃色の唇に軽く口付ける。
「手間賃だ。 ん?ちょっと太ったか?」
千秋は小さく笑うと のだめの背中に左腕を当て屈みこんで涼子の両膝の裏に右腕を差し込む。
食っちゃ寝の生活にしていたのかと千秋は呆れながらも、危なげもなくのだめをベッドルームに運んだ。
そしてリビングに戻り、溜息1つ。目の前には不規則に積み上げられた譜面の歪な山。
「アイツ、落としたな」
ベートーベンの表紙に包まれたビバルディの譜面を見て千秋は眉をしかめ、几帳面な性格がむくむくと顔を出しかけたが、ぐっと譜面をつかむと天に向かって放り投げ、降る白い紙を見ることなく寝室に向かい
ぼっふん
キングサイズの、のだめのいない側のシーツの海に飛び込んだ。
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